仇はとりました
「みゃみゃーっ!」
ミャーリーが耳と尻尾をピンと尖らせて興奮する。イリスは笑みをこぼした。
腹を切り裂かれたカメは絶命して四肢をだらりと弛緩させていた。
その中から颯爽と影が現れた。
「ミャリア! ミャリアにゃ! 無事だったかにゃ?」
カメの身体を突き破って現れたメリアはゆっくりとこちらの方に歩いてきて、にっこりと笑った。
カメの胃酸に溶かされたのだろうか、お姫様らしいひらひらのドレスも、その上にまとっていた光り輝く鎧も、流れるような金髪もボロボロになっていた。ちょっと他人には見せられない格好だ。
しかし本人は満面の笑顔で大きなケガはなさそうだ。
「申し訳ありません。油断しました」
メリアはやってくるなりそう言った。
それにイリスは呆れたように肩をすくめ、
「まあいいさ。終わり良ければ全て良し、だ」
「それともうひとつ……」
「?」
「買ったばかりの剣が……ダメになってしまいました……」
「はぁ!?」
差しだした左手に握られていたのは武器屋で買った数打ち物のロングソードではなく、刀身がその半分くらいのショートソードだった。
いや、そうではない。あのロングソード、『枯れ木に花』の刀身が半ばから溶け落ちていた。カメの胃酸で溶け落ちたのだろう。
「だからもっと良い剣を買えと……てか、だったらどうやって出てきたんだよ?」
メリアは右手に持っている剣を見た。
メリアが左手に握っているのは半分溶けた『枯れ木に花』だったが、右手にはまた別の剣が握られていた。
それはまるで内側から光を発しているのではないかと思えるほど美しい剣で、細長く一直線に伸びる刀身を支える柄には見事な金色の模様がびっしりと施されていた。見るからに名のある剣といった貫禄を持つ業物であった。
「これですか? あの魔物の腹の中にあったのです。『枯れ木に花』が溶けてしまったので助かりましたよ」
それを聞いてイリスは一瞬背筋が寒くなった。メリアがカメの腹を切り裂いて出てくることは織り込み済みだったが、剣の強度については考慮の外だった。もし、この剣がなければ今頃パーティーは全滅していたかもしれない。
「おそらく、前に飲み込まれてしまった人の物でしょうね。痛ましいことですが、仇はとりました」
メリアが魔物の死体の方を向いて一礼した。
「これだったんですね」
「?」
「武器屋で『枯れ木に花』を手に取ったとき、呼ばれているような感じがしたんです」
「そういや、そんなこと言ってたな」
「運命、ねぇ……」
イリスはそういうのは信じるタイプではなかったが、運命と呼ぶにふさわしい流れというものがあることは多くのゲームプレイの経験で理解していた。
「剣も手に入れた。魔物も退治できた。目的達成だな」
「みゃー! ミャー、お腹空いたにゃ! 晩ご飯は何かにゃ?」
「ふふふ。帰って報告したらきっと歓迎されますよ。今夜はご馳走かも」
「やったにゃー! ごちそうにゃー!」
「メリア、悪いがデルフィニウムをおぶってくれないか?」
「むにゃむにゃ……わたしはいちごよりもチョコのケーキがいいの」
「みゃー! デルミャー、まだケーキ食べてるにゃ! ミャーにも分けるにゃ!」
「お前は夢の中のケーキまで欲しがるのかよ」




