ご褒美はケーキがいいの
「にゃにゃにゃー! 逃げるにゃ! 逃げないとぺしゃんこにゃ!」
ミャーリーが恐慌状態になって逃げ出そうとするその首根っこを捕まえてその場に留まらせる。猫は首根っこを掴まれるとおとなしくなることは知っていた。
「逃げるな! ここが一番安全だ!」
言いながら上を見上げる。上空では小さくなったカメが急速に大きくなってくるのが見えた。
イリスはじっとタイミングを見計らい、視界の八割をカメの巨体が占めた所でデルフィニウムに指示を出した。
「デルフィ!」
「みんなを守るの!」
デルフィニウムが叫んだ瞬間、イリス達を半透明の橙色の壁が取り囲んだ。
一秒後、軽く数十万トンはあろうかという巨大なカメの魔物がその上に落下した。
形容しようもないほどの轟音と衝撃が訪れたのは一瞬だった。
手加減なしのデルフィニウムの防御魔法は数十万トンにもおよぶカメの巨体を軽々跳ね返し、最初にメリアを飲み込んだ池のあたりに甲羅を下にして落ち、大きなクレーターを形作った。
「うわ、わわわわわわ!」
大量の礫やら土砂やらがイリス達のいる場所にまで大量に降り注ぎ、思わず両手で頭を庇ったが、まだ効果の残るデルフィニウムの魔法がそれらも防いでくれた。魔法を使ったデルフィニウムはもちろん、とうの昔に魔力を使い果たして夢の中である。
「むにゃむにゃ……。ご褒美はケーキがいいの」
「にゃー! ミャーもケーキ食べたいにゃ!」
「……脳天気な奴ら」
そんな二人にイリスは呆れつつも、安堵のため息をつく。
リクガメはもはや岩山に擬態することはできず、甲羅を下向きにして四肢をばたつかせている。どうやら、自力で起き上がることはできないようだ。
カメの体内からの衝撃はなおも続いている。甲羅を下にしているときには気づかなかったが、衝撃のたびにカメの腹が膨れ上がっているのがよくわかる。この衝撃でカメの巨体が飛び上がったのだ。
ずどん、ずどんと衝撃が生じると腹が膨れ上がる。それは回を追うごとに大きくなっていき、やがて限界を迎えた。
限界を迎えたカメの腹は内側から光を次々と発して、やがて破裂した。




