一刻も早く人々の脅威を取り除きましょう!
「あっちの方に岩山が見えるにゃー」
頭上からミャーリーの声が聞こえる。
集落からさらに奥に入ると木々はさらにうっそうと生い茂り、日中でも薄暗く感じるほどになっていった。
そんな森の中でも木の上に軽々登っていけるミャーリーにとっては視界良好以外の何物でもない。
ミャーリーの指し示す方向に従い、パーティーは森の中を進んでいく。
の、だが……。
「くそっ、屈辱だ」
「勇ミャを森の中で歩かせたら三日経ってもたどり着かないにゃ」
「まあまあ。それもありますが、勇者さまが転んでケガでもされたら大事です」
「…………なの」
「くっ、デルフィにまで言われた……」
メリアにおぶられ森の中を進むイリスがため息をついた。同じく後衛職のデルフィニウムはしっかりした足取りで付いてきているのが余計にイリスのプライドを傷つける。
ギルドの女性が言っていたように、大きな戦いの後なので魔物達もおとなしくしているようだ。
道中特に魔物に襲われることもなく、ミャーリーの正確なナビゲートのおかげもあって昼食を挟んで午後の早い時間には目的地にたどり着くことができた。
「おお、ここがくだんの魔物が現われた場所のようですね。一刻も早く人々の脅威を取り除きましょう!」
メリアは正義バカにふさわしくやる気をみなぎらせている。
森の木々の間にそびえ立つその岩山は従えるように周囲に池をまとっている。池に守られるような形で岩肌にはぽっかりと洞窟らしき穴が空いていた。
「うわぁ、うさんくせぇ……」
いかにも何かありそうな洞窟にイリスの眉間は自然と寄っていく。
「勇者さま。行きましょう! ここで待っていてもただ時間を浪費するだけです!」
前のめりのメリアに対し、イリスはあくまで慎重だ。
「いや、まずはミャーリーを偵察に出して――」
「きゃーっ!」
「!!」
「みゃっ!」
「……なの!」
絹を切り裂くような女性の叫び声にいち早く反応したのはやはりメリアだ。正義の女騎士はおぶっていたイリスを捨てて声のした方――洞窟へと走り出した。
「待て! 早まるな!」
イリスは叫ぶが、すでに剣を抜いているメリアは聞く耳を持たず、
「うははははははは! 待ってろ魔物! ぶったぎってやる!」
なんと、池の上を走って洞窟の中へ入ってしまった。
「仕方ねぇ、デルフィ、ミャーリー、あとを追うぞ!」
「わかったにゃ!」「はいなの!」
池を迂回して洞窟へ向かおうとしたところに、デルフィニウムが声を上げた。
「あれ見てなの……!」
「……!」
最初は岩山が崩れたのかと思った。
しかしそうではないことはすぐにわかった。洞窟周辺の岩々が動き出すのが見えたのだ。
動き出したのは洞窟周辺だけではなかった。
岩山全体が大きく震えたかと思うと、その巨体をゆっくりと、気だるげに持ち上げる。
それは、岩山に偽装した巨大なリクガメのような魔物だった。
文字通り、山のように大きなリクガメである。
「……! まずい! メリア、今すぐ戻ってこい!」
メリアが入っていった洞窟がまさにそのリクガメの口に当たる部分だと気づいたイリスが叫んだ。
しかしまるでそれを合図としたかのようにリクガメはその巨大な頭を持ち上げ、雄叫びを上げた。
『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!』
そして、メリアの叫びもむなしく、その大きな口は無情にも閉じられた。
がちん、という硬質な音があたりに響き渡る。
「メリアぁぁぁぁぁ!」




