魔物など物の数ではありません
イリスとメリアは一旦市庁舎に戻り、屋根の上で寝ていたミャーリーと自室で本を読んでいたデルフィニウムを連れて馬車で街を出た。市庁舎ではカーンが待っていたが忙しいと相手にしなかった。
果たして依頼のあった集落はカールトンの街から道なりに馬車で半日弱でたどり着くことができた。昼過ぎに出発したので日も暮れようとした頃だった。
うっそうとした針葉樹林の一角を切り拓いて数軒の丸太小屋が建てられている、村とも呼べないほどの小さな集落だった。
「ここはカールトンの猟師や木こりが夏の間仕事のために短期滞在する拠点だべさ」
イリス達を迎え入れた大柄だが人の良さそうな男が説明してくれた。冒険者ギルドに依頼を出したのも彼らしい。
「それで、魔物というのは?」
メリアが単刀直入に訊いてきた。男は森のさらに奥の方を指さした。
「森の奥の方だっぺ。この先にある岩山からぶきみな叫び声が聞こえてくるだ。おら、怖くて怖くて……」
屈強な森の男をも震え上がらせる魔物の叫び声と聞いてメリアは俄然やる気を出す。
「お任せ下さい! 私たちにかかれば魔物など物の数ではありません。さあ、勇者さま、行きましょう!」
張り切るメリアだが、ここは水を差さざるを得ない。
「いや周り見ろよ。もう真っ暗だぞ。明日でも遅くはないだろ」
「しかし、一刻も早く魔物を退治せねば人々に被害が……」
「ここに一晩泊めてもらえば少なくともここは大丈夫だろ? なんせ、オレ達がいるんだからな」
「それもそうですね! では、今晩はここにお世話になるとして、明日の朝一番に向かいましょう!」
ちょろい。
その日の夜は集落の歓迎を受けた。山の幸をふんだんに使った料理は素朴だが味が濃くて好き嫌いの多いイリスでも楽しめた。野菜やキノコはすべてミャーリーに食べさせたのは内緒だ。




