奥の工房で鍛えた剣をこの店で売っているんですよ
「……カーンさんのこと、よかったのでしょうか?」
昼下がりのカールトンの街はそこそこの人出があった。市庁舎から延びる大通りをメリアとともに歩く。
「いいんだよ。城までまた何週間もかけて行くのめんどくせーし」
二週間前の帝国軍の戦いにて、特に功績を挙げた何人かの勇者は王都に呼ばれ、国王直々に勲章を授かったらしい。噂によると、それらの勇者達は貴族に叙されるのだとか。
本来であればそこにイリスも含まれていたのだが、この小さな勇者はこれを拒否してカールトンの財政を預かっていた。
「それに、社交界とかオレには無理だよ。メリアだってイヤだろ?」
「ま、まあそれはそうですが……」
正義を成すために旅に出たと行っているメリアだったが、社交界でお姫様らしい役割を求められる窮屈さに嫌気がさして逃げ出したということはイリスも知っていた。
「それで? 剣を買いに行くんだろ? どこにあるの?」
「あ、こちらです」
イリスはメリアと連れだって大通りを歩いて行った。もちろん。これまでの経験から手を繋いでである。
市庁舎がある大通りから何回か曲がった後、狭い道に多くの小さな店が軒を連ねる職人街のようなところに出た。金属を打つ音や木を叩く音などがあたりから聞こえてきて、いかにもそれらしい雰囲気を醸し出している。
メリアはどこで情報を仕入れてきたのか、迷いもせずに歩を進め、その中の何の代わり映えもしない一軒に迷うことなく入っていった。
あまり広くない店だ。しかし店内には所狭しとさまざまな大きさと形の剣が飾られている。イリスに剣の善し悪しはわからないが、いかにも強力そうに見える剣もその中には含まれていた。
二人は埃っぽい店の中に入っていき、店内に飾られる武器の数々を見渡していく。
「奥の工房で鍛えた剣をこの店で売っているんですよ。この町にはこういうスタイルの店が多いんです」
「へぇ……。こうやって並んでると結構燃えるっていうか、ワクワクするな」
「でしょう? 私は一本の剣を大切に使うタイプですが、たくさんの剣をコレクションする人の気持ちもわかります」
その割には剣を敵に投げつけてなくしたけどなとは言わなかった。
「いらっしゃい」
二人が店内の剣を眺めていると無愛想な少年が声をかけてきた。この店の店番なのかもしれない。




