新しい剣を調達しようかと
「勇者さま」
「なんだ」
六畳ほどの部屋、その部屋の主の小ささにそぐわないほど大きな机にイリスは半ば埋もれるように座っている。幼女勇者はそこで羊皮紙に文字を書き込み、傍らに置かれていた判をぽんと押す。そのまま次の書類を取りだしてふたたびまた何事か書き込んでいく。
「剣がありません」
「お前が投げるからだろ。オレは悪くない」
先の帝国との戦いの最中、メリアは逃走する敵の足止めのため、愛剣を投げつけた。
その後、デルフィニウムの放った水魔法によってその剣は流され、剣は失われてしまったのだ。
「いえ。それはいいんですが、新しい剣を調達しようかと」
「いや、いいのかよ!」
思わず突っ込んだ後、その後ろの言葉のことが気になり、書き物の手を止めてメリアの方を見た。
「ん……? 新しい剣?」
「はい。このカールトンの街は前戦の街とも言われていることから、腕の良い鍛冶屋が多いのです」
「鍛冶屋? お前店売りの武器使うの?」
「といいますと?」
「いや、てっきり伝説の剣とか使ってるのかと思ってた。ほらお前強いし、お姫様だし」
「前の剣はそうだったんです。エルフの族長から献上された剣で、『枯れた妖精王の腕』という名前でした」
「おまえ、そんな剣をなくしたのかよ……。というか、その名前なんなの?」
「過ぎたことです。それに、剣を惜しんで勇者さまを失っては本末転倒です。あと、剣の名前は私が付けました」
「どういうセンスだよ……。まあ、それはともかく……ありがとな」
イリスは照れを隠すかのように再び机の上の書物に目を通して書き物を再開した。
「うーん、次の剣が見つかるまでの代役ならいいか。で、いくらだ? それくらいなら街の予算から捻出できるぞ」
先の戦いから二週間。帝国軍の奇襲を見事切り抜けたイリス達だったが、戦いの最中で川を氾濫させてしまい、少なからず街に被害を出してしまった。
戦争で疲弊しきっている街に復興の予算など捻出できない……と泣きついてきた市長に代わり、どういうわけかイリスが街の予算や復興計画の作成など、街の運営を担うことになってしまった。街に被害をもたらしたという負い目もあった。
「都市経営シミュレーションゲームの経験が生きた」とはイリスの談である。
その効果があったのかは不明だが、イリスは行政上のムダをことごとく指摘し、街の財政は戦前よりもむしろ健全化したほどであった。どういうわけか今では街の予算執行権はイリスの手にある。
「いえ、それには及びません。お金は十分持っておりますので」
「さすがお姫様。オレも人生で一度は言ってみたい台詞だぜ」
庶民であるイリスが本音を漏らした。




