そういう時期こそが絶好のタイミングといえる
それから数日が経過した。今日も平原では飽きもせず勇者と魔王の配下達の戦闘が繰り広げられており、一方イリス達は橋の下で敵の別動隊がやってくるのを待っていた。
戦闘に従事している勇者達は街の反対側の郊外に用意されている天幕で寝泊まりしているが、イリス達だけは街中の宿屋を利用している。そろそろ宿屋の主人をはじめとした街の人々はイリス達に不信感を抱き始める頃だ。
「しかし、そういう時期こそが絶好のタイミングといえる」
聞けば、両軍の衝突は激しさを増し、双方共にかなりの損失を出しているらしい。
自軍の損失をある程度までは飲み込んで最適なタイミングとなるまで待つことができるのか、それともただ正面からの力押ししかできないのか。イリスは敵司令官の器を推し量ろうとしていた。
「すぅ、すぅ……」
昼下がりの午後、のどかな陽気。夏が近いとはいえ北方のこの辺りは汗ばむほどではなくほどよい陽気。ミャーリーにああは言ったがメリアやデルフィニウムが船を漕ぐのを見て。イリスは自分も眠気を覚える。
「ミャーリーの奴、居眠りしてなきゃいいけどな……」
こういう時のためにミャーリーは夜ゆっくり休ませるようにしていた。しかしこの陽気では一抹の不安もよぎる。
そんなとき、イリスの頬を一陣の風が通り抜けたかと思うと、すぐ隣にミャーリーが戻ってきていた。
イリスの眠気が瞬時に吹き飛ぶ。
「来たか」
「みゃっ。全部で四人。あと十分くらいでここまで来るにゃ」
イリスは頷くと、二人に声をかけた。
「起きろ。予想通り敵が来るぞ」
その声にデルフィニウムはゆるゆると、メリアはただ目を瞑っていただけかと思えるほどぱっちりと目を覚ました。それぞれ、なるべく音を立てないように戦支度を整える。
メリアは身体の各所に取り付けられている鎧の様子を確かめて自らの身体の動きを阻害しないことを確認し、さらに剣を腰のホルダーに取り付けた。
デルフィニウムはカールトンで買い与えた魔法使い用の杖を取りだして緊張した面持ちでそれをぎゅっと抱きかかえる。
ミャーリーもスカートの中、太股に装備したナイフの様子を指さし確認している。
イリスは……特にやることもないので川の上流をじっと見ている。
各々の準備が整いしばらくした頃、川辺を四つの陰が音もなく現れた。ミャーリーが予告した十分ちょうどの後だった。




