さあ、イベントの時間だ!
村長宅の再建工事はそれから三日の後に始まった。近くの街から大工を呼び寄せ、村長宅を建てさせるのだ。
その資金はもちろん、王国が準備した旅の資金である。正義バカが難色を示したが、村長宅をなんとかせずに旅立ってもいいのかと聞くと、渋々ながら了承した。
デルフィニウムは翌日の朝目を覚ました。どうやら、魔力を使い果たして意識を失ったらしい。
『魔法の加減ができない』と言ったデルフィニウムの言葉の正確な意味がようやくわかった。要するに、手持ちの魔力をひとつの魔法に全部つぎ込んでしまうらしい。
イリスはこの先デルフィニウムを前衛職として使うつもりはなかった。加減の効かない魔法使いだが、使いどころを考えれば強力な切り札になる。
デルフィニウムは最初泣いて抵抗したが、村長宅の再建ができないと旅立てないと数日掛けて説得するとわかってくれたようだ。
タンクになる夢よりも、勇者の仲間になることの方が重要だとたどたどしく説明してくれたときはさしものイリスも感極まった。
鎧は溶かして村長宅の再建に使用した。
ドワーフの鉱山師は村を拠点として調査を再開したようだ。鉱山として有用性が証明されれば村も少しは潤うと思われるのだが、結果が出るのはまだ当分先らしい。その結果を知ることはないだろう。
「それじゃあな。長居して済まなかったよ」
「いえいえ。我々も慌ただしくも楽しい日々を過ごさせてもらいましたよ」
そして村長宅の再建が軌道に乗り始めた一週間後、勇者一行はようやくカールトンの街に向けて出発することができた。出発の時は村人達が総出で見送ってくれた。
その後はこれまでのトラブル続きが嘘だったかのようにこれといったトラブルに見舞われることもなくカールトンの街に到着した。
王都を発ってから実に二ヶ月。通常まっすぐ向かっていたら馬で一週間の距離である。
しかしイリスは充実した道のりに満足していた。
正義バカで剣を抜くと性格が豹変するが常識外れに強い騎士のメリア。
一見役立たずだがムードメーカーでポテンシャルは高いとみているメイドのミャーリー。
全く使えない前衛かと思ったら単に使いどころの難しい魔法使いだったデルフィニウム。
第999勇者パーティーはこの布陣で帝国軍と対峙しようとしていた。
季節は夏にさしかかろうとしており、帝国軍の侵攻も近いと予測されていた。
「さあ、イベントの時間だ!」




