悪い勇ミャはミャーが退治するにゃ
夜が明けてから村を発ち、そして――
「な、何が歩いて半時間だ……。半日かかったじゃないか」
道端の石に腰掛けて肩で大きく息をしているイリスの脇では、デルフィニウムが自分のハンカチでぱたぱたとイリスを扇いでいる。
「勇ミャの歩くのが遅すぎるにゃ。ミャーなら五分で来れる距離にゃ」
そう言うミャーリーは道の反対側の大きめの岩の上に寝転がって大きくあくびをしていた。
「馬車で行けないなんて聞いてなかったぞ!」
「あったり前にゃ。あんな狭くて急な山道、馬車が通れるはずないにゃ。勇ミャはもうちょっと頭を使った方がいいにゃ」
「お前に言われたくないわ!」
イリスはその場で大の字になってひっくり返った。山々の間に広がる青空を白い雲がゆるやかに流れていくのが見えた。
しばらくそうやってぼうっとしていたが、やがて飽きたのかおもむろに起き上がり、目指す方向を見た。岩肌にぽっかりと穴が空いている。
「あれか」
「どうするの……?」
イリスを扇いでいたデルフィニウムが心配そうな目でイリスを見た。
「どんな魔物がいるか知らんが、すぐそこに村があるのに被害が出てないってことはそんな危険な魔物じゃないだろう。だから――」
イリスは洞窟の入り口を指さす。
「あぶり出す」
作戦としては単純だ。村から持ち込んだ藁を燃やして中の魔物をあぶり出す。出てきた魔物をデルフィニウムの魔法で一網打尽にするというものだ。
しかし――
「できないってどういうことだよ!?」
作戦の要であるはずのデルフィニウムの協力が得られなかった。
「何でだよ!? 前衛志望だって言っても魔法が使えないわけじゃないだろ?」
イリスが食い入るように問い詰めるが、デルフィニウムはふるふると首を振るだけだ。
「そんなに問い詰めたら言いたいことも言えなくなるにゃ。デルミャーはミャーと同じで繊細なのにゃ」
「ぐっ……。こいつに正論を言われるなんて……」
「ミャーはいつも正しいことしか言わないにゃ」
そう言ってミャーリーはデルフィニウムの隣に行って肩に優しく手を当てた。
「大丈夫にゃ。デルミャーをいじめる悪い勇ミャはミャーが退治するにゃ」
「誰が悪い勇者だ」
イリスとミャーリの軽口の応酬によってデルフィニウムは少しずつ落ち着きを取り戻し、事情をぽつぽつと話し始めた。
「わたし、魔法の加減ができない……の」
「そういや昨日もそんなこと言ってたな」
魔法の加減ができず、重量軽減の魔法が効きすぎて鎧が空に向かって落ちていった、ということなのだろう。
「けど、いいんじゃねーの? 相手は村の人たちを脅かしてる魔物なんだし」
「でも……」
「倒しきれなかったときのことを考えてるんだろ? なら大丈夫だ。洞窟の入り口を狙って攻撃すれば、入り口が崩れて魔物はもう出られなくなる」
「う、うぅ……」
「よし、それで決まりだ。そうと決まればオレは煙の準備をしてくる。ミャーリーはここに残ってデルフィのサポートをしてくれ」
「わかったにゃ!」




