はぐれゴーレム……なの
「なんじゃありゃ?」
馬車を止めた山道の先には道を塞ぐように黒い大きな岩が置いてあった。
いや、ただの岩ではない。縦に何個も連なるように置かれているそれは岩の頭と岩の足を持つ、人型をした岩の連なりであった。
「あれ、はぐれゴーレム……なの」
デルフィニウムが馬車の荷台から顔を覗かせて言った。
ゴーレムとは岩や鉱物などを材料に、魔術師達がかりそめの命を与えて作成した使役物である。それが何らかの理由で創造主の制御を逃れ、野に放たれた個体がはぐれゴーレムと呼ばれる。
はぐれゴーレムはその作成理由によって行動原理が異なるために、荷運び程度の理由だったらはぐれてもそれほど害はないが、戦争用に作られた個体だったら無差別に人を襲う可能性があるために厄介だ。
「なるほど……。あいつが何を目的にあそこにいるのかは知らんけど、道の真ん中にいられたら邪魔でかなわん」
イリスがとりあえず相手の行動パターンがわからないと対処のしようがないと馬車の中からゴーレムの動きを観察していると、ゴーレムの瞳――多分――が赤く光った。びこーんという効果音が脳内で流れたのはおそらくイリスだけだろう。
「ヤバい、来るぞ。デルフィ、押さえてくれ」
「前衛として最初の仕事なの。腕が鳴るの」
馬車の中では一時的に外していた兜を再び被り、デルフィニウムは山道を登っていく。
ゴーレムはどしん、どしんと大きな足音を出してゆっくりと坂を下りてくる。
全身鎧を着けてそのシルエットは幾分大きくなっているが、それでも全高三メートルはあろうかというゴーレムに立ち向かうデルフィニウムの姿は不安に思わないでもない。
しかしどんな敵であろうとも果敢に立ち向かい、攻撃を一身に受けて仲間たちを守るのが前衛職だとイリスも知っていた。
「私も行きます。デルフィさんと協力して――」
「ダメだ。デルフィが敵の動きを止めるまで待て。それがあいつの仕事だ」
「しかし……!」
「メリア、お前デルフィを信じられないのか? 口だけ仲間だ仲間だと言ってやるべき仕事をさせないのは信用していないと声高に宣言しているのと同じだぞ」
「そんなことは……っ!」
イリスが睨むとメリアは唇を噛んで押し黙ってしまった。メリアはあの強さだ。今までどんな敵が来てもひとりでどうにかできたのだろう。この機会にメリアにパーティでの戦いを覚えてもらう必要がある。
デルフィニウムが坂道を駆け上がり、ゴーレムに接敵する。
「敵の動きを見逃すな。相手は人型じゃない。想像もできない動きをする可能性がある」
「はい」
メリアは神妙な顔で頷いた。
「ミャーリーは周囲の状況を確認。状況に変化があったらすぐに伝えるんだ」
「みゃっ!」
ミャーリーは軽やかな動きで馬車の幌の上に登っていった。




