ミャーリーさん、起きてください。馬車を止めて
「急な来訪にもかかわらず、宿を提供していただきありがとうございました」
出立する一行を出迎えるためにやってきた村長始め村の人々に対し、メリアが丁寧に礼を述べた。
「いえいえ。困っている旅人を見かけたら手を差し伸べるのは当然のこと。それが姫様と勇者さまであればなおのことです。それよりも粗末なベッドで大変申し訳ありませんでした」
村長は家の床に穴を開けた件については触れなかった。多少多めに修理費を渡した甲斐があったというものだ。
「そんなことはありませんよ。村長さんのご厚意は王宮のベッドよりも優しく、暖かく私たちを受け入れてくれました」
「ははは。そう言ってもらえると私たちも肩の荷が下りるというものです」
「それじゃ」と言い残してイリス達を乗せた馬車はがたがたと道の整備されていない道を北に進んでいく。村人の声が少しずつ小さくなっていった。
御者台にはミャーリーが座り、イリスとメリア、そしてデルフィニウムは荷台に入っている。
村から先の道は徐々に上り坂になっている。ここからは峠越えだ。ガタガタの悪路がつづら折りになってはるか上まで続いているのが見える。代わり映えのしない風景だ。
そんな山道を王都以来の最も長い連れである馬にひかれて進んでいく。蹄のぱから、ぱからというリズミカルな音と、昼下がりの陽気がミャーリーならずとも眠気を誘う。
うとうとと気持ちの良い時を過ごしていると、耳元でがたりという大きな音がしてイリスの心地良いひとときは終わりを告げた。
「……なにが」
あたりを見ると、メリアがちょうど荷台から御者台の方へと顔を出そうとしているところだった。
「ミャーリーさん、起きてください。馬車を止めて」
「んにゃ……!?」
御者にもかかわらず船を漕いでいたミャーリーが寝ぼけた声を出した。




