デモン族の村から旅してきたの
「わたしは……南にあるデモン族の村から……旅してきた……の……」
結果的にイリスが聞き役になったのは正解だったといえるかもしれない。
どう見ても十代前半だとおぼしきデルフィニウムから見て年少にしか見えないの女の子が――本人は断固として否定するだろうが――ねこ娘と子供の喧嘩を繰り広げたのだ。警戒しろという方が難しい。
もともと会話はあまり得意ではなさそうなデルフィニウムは、たどたどしくも、ゆっくり確実に自分の事情を話し始めた。
重装騎士に憧れたデルフィニウムだったが、デモン族の村には魔法使いが多く、重装騎士の指導をしてくれる者はいなかった。仕方がないのでデルフィニウムは自分の家にあった飾り物の鎧を身につけて一人旅だったという。
「でも、途中で道に迷って……ご飯もなくなって仕方なく鎧の中で寝てたら、いつの間にか気絶してたの……」
「ま、まあ……大変だったな」
「なの」
こくりとデルフィニウムは頷いた。
魔法使いが多い村で一人だけがタンクを志したが誰にも教えを請うことができないという気持ちはわからないでもなかった。イリスの周囲にもプロゲーマーを目指す人なんて誰もいなかったからだ。
「で、これからどうするつもりなんだ? オレ達はここから山を越えてカールトンまで行くつもりなんだが、方向が同じなら一緒に行くか?」
イリスの申し出にデルフィニウムはふるふると首を振った。
「王都に行くつもりなの。そこで勇者さんの仲間になって、勇者さんの前衛になるの」
「え? 王都って全然方角違わなくない? てか……」
イリスがじっとデルフィニウムを見る。デルフィニウムは不思議そうにイリスを見返した。長いまつげが時折揺れる。
イリスは自分を指さして
「勇者」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「あっ!」
デルフィニウムの隣ではいつの間にかミャーリーがまるくなって寝息を立てていた。
こいつ、隙があればすぐ寝るな……。




