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わたしは大陸いちの前衛職になるの!

「う……」

「みゃっ! 気がついたにゃ!」


「ここは……どこなの……?」

 彼女にとって不幸だったのは、目が覚めたときに隣にいたのがミャーリーだったことだろう。


「ここはミャー達の部屋にゃ! ミャーは教皇宮のメイドだったけど、教皇さまに頼まれて勇ミャのメイドになった、すごいメイドにゃ!」


 突然目の前のねこ娘が立て続けに話し始めたことに女の子は目を丸くして驚いていたが、そんなことはお構いもなくミャーリーは話し続ける。


「勇ミャたちは今お皿洗ってるにゃ! ミャーはひと眠りするために先に部屋に戻ってきたところでキミャの目が覚めたのにゃ! ちなみに、今日の晩ご飯はお肉だったにゃ。昨日もお肉だったにゃ。勇ミャはお魚が嫌いだから、毎日お肉でちょっと飽きてきたにゃ。ミャーはお魚が食べたいにゃ!」


「食わせてもらってる分際で偉そうなこというな」

「……!!」

 いつの間にかイリスとメリアが戻ってきた。


 羊角の女の子はそれに驚いたのか、小さくなってミャーリーの陰に隠れてしまった。自分の頭を触りながら、「ない、ないの!」と慌てている。


「何やってるんだ?」

 イリスが隣に立っているメリアに聞くが、メリアも首を傾げるばかりだ。


「鎧がないの……! あれがないとわたし……困るの!」

 女の子は自分の身体をあちこち触りながら「ない、ない」と困ったような顔をしている。


「あー、あれか。クソ重かったし錆だらけだから捨ててきたけど、ダメだったか……?」


 イリスが頭をかきながら答えると、女の子はそれまでミャーリーの影に隠れていたのを忘れたかのようにイリスに詰め寄ってきた。


「困るの! わたしは大陸いちの前衛職タンクになるの!」


 ふわふわの紫髪とどこかオドオドした雰囲気から引っ込み思案なタイプかと思ったが、全身鎧を求めて詰め寄ってくるその姿にイリスは思わず圧倒されてしまう。


「わ、わかったから落ち着け」

「落ち着けないの! 鎧を返してなの!」


 全く話が噛み合わない状況にイリスは怒りがこみ上がってきた。さりとてこんな中学生みたいな――自分の姿形が十歳なのは華麗に脇に置いておいた――女の子相手に怒鳴りつけるわけにもいかず、頭を乱暴にかきむしってそのストレスを少しでも緩和しようとした。クセのないストレートの髪が指に絡みつく。


「返す。鎧は返すからとりあえず離れろ。メリア」

「鎧ならあの場に置いたままになってるかと思います。取ってきますね」

「……頼むわ」


 メリアが鎧を取りに出て行ったのを見て、女の子はようやく落ち着きを取り戻してくれた。

「……疲れた」




「とりあえず自己紹介だな。オレはイリス。一応勇者ってことになってる。さっき出ていったのが騎士のメリア。そんでこのうるさいのが」


「メイドのミャーリーにゃ!」

 ミャーリーが手を上げて元気よく挨拶する。その大声に女の子は驚き、一瞬びくりと身体を震わせた。


「うるさいんだよ」

「みぎゃっ!」


 イリスがミャーリーの頭を軽くはたいた。そんな二人の様子を見た女の子が薄く笑った。


「わたしは……デルフィニウム……なの……」

「デルフィニ……長いな。デルフィでいいか?」

 ニックネームで呼ばれたことがないのかもしれない。女の子は少し驚いた後、嬉しそうにこくりと頷いた。


「みゃー! デルミャーにゃ!」

 ミャーリーが再び騒ぎ出したので、またイリスと騒ぎになる。


「だー! お前うるさい! もう夜遅いんだから、静かにしてろ!」

「うるさいって言う方がうるさいにゃ!」

「どう考えてもお前の方がうるさいだろうが!」

「ミャーは普通にゃ! 勇ミャの方がうるさいにゃ!」

「お前が騒ぐからだろうが! だいたいおまえはだな――」


 イリスの言葉は遮られた。イリスの怒鳴り声よりもはるかに小さな、くすくすという笑い声によって。

「ふふふっ……たのしそう……なの……」


 その一声によってイリスとミャーリーの毒気は一瞬で拭い去られてしまった。


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