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デモン族ですね

 甲冑の中に入っていた女の子から甲冑を脱がし、とりあえずイリス達の馬車の荷台に横たえた。


 幸いにして重かったのは甲冑だけで女の子は女の子らしい重さしかなかったので、馬車の荷台が破壊されるというようなことはなかった。今はすやすやと眠っている。イリスは壺から毛布を取り出して女の子にかけてやった。


 目鼻の整った丸顔の女の子である。見た感じ年齢はイリスより少し年上、中学生くらいだろうか。薄紫のふわふわにカールした髪が特徴的だが、そこからのぞく二本の突起物――角が目に入る。ふわふわの髪とあわせて羊を連想させる少女だった。


「デモン族ですね」

 障害物がなくなったので動き出した馬車の上でメリアが言った。

「デモン族?」


「東大陸を支配する一族です。戦闘力、魔力、知力に優れ、歴代の魔王を輩出する強力で残忍な種族です」

 メリアがそう説明してくれたが、イリスには引っかかる点があった。


「そんな奴らが何でこんな所に? 東大陸の奴は西大陸に侵攻しようとして勇者達が食い止めるって話じゃなかったか?」


 そうだ。メリアの父でもある国王の説明によると、東大陸の魔王率いる軍勢は西大陸に攻め込もうとしているが、西大陸ではそれに対抗すべく勇者を召喚して迎え撃つという話だったはずだ。


 だったら東大陸にまだ魔王の――魔王を輩出するデモン族の影響は及んでいないはずだ。


 その疑問にもメリアは答えてくれた。

「東大陸から人間や亜人が逃れてきたのと同様、一部のデモン族も逃れて王国の庇護下にあるのです」


 メリアが説明するところによると、デモン族内部での主導権争いに敗れたりするなどでこの二百五十年の間に数百人の亡命者がいるとのことだ。

「もっとも、私も見たのは初めてですが――」


 西大陸のデモン族はその出自から疑いを持たれないよう、王国の辺境でひっそりとおとなしく暮らしているそうだ。


「まあ、そりゃそうだな。でもこの子はここにいる」

「何か事情がありそうですね」


 面倒なことになったとため息をつくメリアだったが、かといってこの女の子を放り出すこともできない。彼女の目が覚めて事情を聞くまではこのままにすることにした。


「ま、いざとなったらこのバーサーカーになんとかしてもらえばいいか」

 そうつぶやいて荷台の中で女の子の顔をぬれタオルで拭いてやる優しそうな女騎士を見た。その姿からはとてもあのバーサーカーを思い浮かべることはできない。


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