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意外と重いですね

「で? こんな所で何をしてるんだ?」

「ミャーがすごいメイドだって話をしてたにゃ!」


 そう答えるミャーリーに「はいはい」と手を振って答えると、イリスは説明を頼むとばかりに商人の方を見る。


「あれですよ」

 そう言って商人が指さした方を見る。


 ここはもともと左右を崖に挟まれて馬車がすれ違えないほど狭い道だが、その一際狭くなっている部分、馬車が一台ぎりぎり通れそうなほどの場所の一番狭くなっている部分の真ん中に狙い澄ましたかのように甲冑が置いてあった。


「何でこんなものがこんな所に」

 イリスは甲冑のところまで歩いて行って、その肩をこんと叩いた。


 ご丁寧に甲冑はフルセット揃っており、まるでどこかの洋館に飾ってあるようなものだった。かといってホラー映画のように今にも動き出しそうなのかというとそうでもなく、長い間風雨にさらされていたのか、あちこちがさび付いている。


「こんなもん、動かせばいいんじゃねーの?」

 イリスがコンコンと甲冑を叩きながら商人に聞くが、


「それが、見た目よりもずっと重いんですよ。馬で引いてもびくともしないのです」

 そう言われてみれば商人の馬は馬車から外されていた。

「そんなバカな。……って、うわ、マジで重いわ」


 十歳児相当の体格しかないイリスだったが、全体重をかければ少しは動くだろうと思っていた。イリスよりも少し大きい程度の大きさしかないのに、まるで大地に根を張ったかのようにずっしりと重い。


「おーい、メリア。ちょっと来てくれ!」

 イリスがメリアを呼ぶと、メリアはすぐにやってきた。


「お呼びでしょうか、勇者さま。どうされました?」

「悪いけど、これどかしてくれないかな?」


 言って、さび付いた甲冑を指さす。それを聞いた商人が「いや無理でしょ」という顔をしていたが、当のメリアはなんと言うことのない口ぶりで「わかりました」と答えた。


「よっ、と……。あら。意外と重いですね」


 と言いつつもずりずりと甲冑を引っ張っていく。地面に深く残された引きずられた跡が甲冑の重さを物語っていたが、メリアはなんということなく甲冑を引きずる。

 傍らでは商人が信じられないものを見たと言うような顔をしているのが傑作だった。


 もう少しで馬車が通れるほどの隙間が出来そうというところでメリアが手を滑らせて甲冑が倒れた。ガンという大きな音とともに甲冑の兜が外れてコロコロと転がった。


「きゃぁぁ!」

 それを見たメリアが女の子らしい悲鳴を上げた。


「いや、甲冑の頭が取れたくらいで何驚いてるんだよ……」

 イリスがあきれ顔でメリアを見るが、メリアは青ざめた顔で甲冑を指さした。


「ち、違うんです。勇者さま、見てください!」

 イリスとミャーリー、商人が言われるまま倒れた甲冑のところまでやってきた。そしてメリアの指さしたものを見て、一同は驚愕した。


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