あのクソ教皇……
「ふわぁ……よく寝たにゃ」
ミャーリーも置きだしてきて、御者台の方に顔を出してきた。二人ともすっかりこのねこ娘の存在を忘れていたのは内緒である。
「お前、まだ寝てたのかよ。そんなに寝てると夜寝れなくて困るぞ」
「ミャーはいつでも、どこでも、いつまでも寝られるのが自慢にゃ! 今から朝までだって寝られるにゃ!」
どうでもいいことにエヘンと胸を張るミャーリー。
「それよりお前、仕事はいいのか? 昼前からずっとオレ達と一緒……というか、寝てたじゃないか」
「みゃ? ミャーはずっと仕事中にゃ。今この瞬間も仕事中なのにゃ!」
イリスはふたたび大きくため息をついた。
「はぁ。お前またわけのわからないことを……」
「そういう勇ミャは何してるにゃ? 行かなくていいのかにゃ?」
ミャーリーは特大のあくびをした。あれだけ寝てもまだ寝たりないらしい。
「だから、教会から派遣される仲間を待ってるんだよ。何聞いてたんだよ……って、ずっと寝てたから聞いてないのか?」
あきれ顔のイリス。だが、ミャーリーの反応はイリスの想定外だった。
「教会から派遣された仲間ならずっといるにゃ? 勇ミャはなにを言ってるにゃ?」
「はぁ……? お前こそ何を言って……」
そこまで言ってはたと気がついた。隣に座っているメリアの方を見る。
メリアもイリスと同じように何かに思い至ったらしい。
「「まさか……!」」
イリスとメリアは一瞬お互いを見てから、ミャーリーの方を見た。ミャーリーはそんな二人の様子には全く気づく様子もなく手で目元を拭っている。
「もしかして……」「まさか……」
イリスとメリアが揃ってその可能性を口にする。
「お前が新しい仲間なのか?」「ミャーリーさんが教会から派遣された仲間なんですか?」
それにミャーリーの三角の耳がぴくりと反応した。
「そうにゃ! 勇ミャの新しい仲間、ミャーリーとはミャーのことにゃ!」
ほとんどたいしたことは言っていないのだが、その言葉にイリスはショックを受け、うなだれた。
「マジか……。あのクソ教皇……」
「まあまあ。教皇さまとて私たちに嫌がらせをしたいわけではないでしょうし、きっとミャーリーさんこそ適切だとお考えになって遣わせたのでしょう」
その言葉にイリスは教皇のあの醜い顔を思い出して嫌な気分になる。
「そうかぁ……? あのジジイならそれくらいしてもおかしくないと思うけどなぁ……」
そう言って少し考える。
「とはいえ、ミャーリーにお前は不要だから教皇宮に帰れとは言えんしなぁ……」
そう言ってミャーリーを見る。ミャーリーは自分が話題の中心になっているにもかかわらず、興味なさそうに通りを歩いている人たちを眺めている。
「ま、よくある話か……」
イリスの経験ではパーティーに想定外のプレイヤーが混ざることはよくあることだ。それ込みで行動計画を練ればいい。そう思うことにした。
「みゃ!?」
ミャーリーが突然声を上げた。彼女の方を見ると、何かに気づいたかのように背筋を伸ばして遠くの方を見ている。
「どうした? 何かあったのか?」
「お腹空いたにゃ! 昼に食べた焼き魚がまた食べたいにゃ!」
思わずずっこけた。ミャーリーが見ているのはちょうど昼前に行った大衆食堂のある方角だ。夕食時になっていい匂いが漂ってきたのを嗅ぎつけたのかもしれない。
「お前なぁ……」
「お腹空いたにゃ! お腹空いたにゃ!」
「だーっ! 状況考えろ! こちとら、お前のせいでいろいろ悩んでるってのに!」
「まあまあ。ミャーリーさんの言うとおり、今日はもう遅いですし、もう一泊して明日朝出発しましょう」
「さっすがミャリア、話がわかるにゃ! お魚食べに行くにゃ~!」
「だーっ! いいからお前は静かにしてろ!」
「まずは宿に戻って馬車を預けますね。しゅっぱーつ!」
ぎゃーぎゃー騒ぐ二人を荷台に、馬車は今朝来た道を引き返していった。
こうしてメイドのミャーリーが仲間になった。一行は翌朝、ようやく聖都プラントンを発つことができた。




