おかず取り替えっこするにゃ?
「ムカつくヤローだったが、なんとか人の確保も出来そうでよかったな」
「勇者さま、教皇さまに対して口が悪いですよ」
「そう言うお前だってかなりキレてたじゃねーか。まあ、オレとしてはバカにされたらあれくらい怒っていいと思うけどな」
「……お恥ずかしい。穴があったら入りたい気持ちです」
聖都入り四日目。二人は宿のチェックアウトを済ませ、預けていた馬車を引き取って聖都の東門へと向かっていた。
前日に教皇が用立てると言った新しい仲間とは、今日の昼に東門で待ち合わせると、宿に使いをやって伝えてきた。新しい仲間と合流し、そのまま目的地であるカールトンへと向かう予定だ。
「……まだ約束の時間まであるな。腹も減ったし何か食っていかないか?」
「いいですね。名物の魚料理などいかがでしょう。この近くに……そんな嫌そうな顔をしないで下さい」
「お待たせしました。ペイントンフィッシュのクリームソース和えと地鶏の炭火焼きカッコロでございます」
「おおっ、うまそう!」
結局、二人はメリアお勧めの魚料理屋ではなく、東門の近くに店を構える、旅行客相手の大衆食堂に入っていった。
店のロゴが入ったエプロンをした兎人のウェイトレスがてきぱきと注文した料理をテーブルの上に乗せていく。炭火で焼いた鶏肉のえもいわれぬ良い香りがイリスの鼻孔をくすぐる。
ちなみに、『カッコロ』とは蒸し野菜の上に焼いた肉を乗せて味噌のようなソースを上にかけたこの地方の郷土料理らしい。イリスはもちろん野菜は残して肉だけ食べるつもりだった。
「それにしても……お前この期に及んでまた魚かよ、よっぽど好きなんだな」
「特別に魚が好きというわけではありませんが、やはり聖都に来たからにはお魚は欠かせません。名物ですから」
そう言ってスパゲッティのような麺を上品に口に運んだ。魚さえ入っていなければ美味そうなのになあとイリスは思った。
「お待たせしました。焼き魚の盛り合わせです」
「いや、頼んでないけど……?」
先ほどの兎人のウェイトレスが追加の料理を運んできた。イリスもメリアも頼んだ品はもう届いており、焼き魚の盛り合わせは頼んでいない。
「それはミャーが頼んだ料理にゃ!」
聞き慣れた声の方を見ると、予想通りの人物がいた。
黒い髪、三角の耳、つり上がった瞳、そしてメイド服。
この聖都ペイントンで何かが起こるたびにその場に居合わせる教皇宮のメイド、ミャーリーだ。
「……お前どこにでも現れるな」
イリスがあきれ顔でミャーリーを見るが、当のミャーリーは出された焼き魚に夢中で「うまっ、うまっ」としか言っていない。
「まあまあ。食事は大勢でとった方が楽しいものですし、いいじゃありませんか」
「そうにゃ! おかず取り替えっこするにゃ? 勇ミャのもおいしそうにゃ!」
「いらねえよ!」




