お砂糖、入れましょうか?
「ここでお待ちください」
そう言うと修道女は一礼して去って行った。
二人が案内された部屋は、イリスの地球での自室よりは広いが、学校の教室よりは狭い程度の部屋だった。
ここに至るまでの回廊とは異なり、白一色で塗られた壁には一切の装飾はなく、シンプルな造りになっている。
部屋の中には両手を広げたくらいの大きさの角テーブルに、椅子が三脚置かれている。
テーブルは部屋の隅に置かれており、部屋の窓際に置かれていた。城でも見かけなかった大きな透明の窓ガラスだ。
窓からは延々と続く背の低い石造りの建物が一望できる。ここは聖都ペイントンの中心部にそびえ立つ教皇宮。これより高い建物は神を見下ろすという理由から禁じられているとは、先ほどの修道女の言葉だ。
「いい眺めですね」
「そうだな」
何とはなしに椅子に座ってそんな話をしていると、メイドがやってきて、お茶を淹れてくれた。
「教皇猊下は間もなくいらっしゃいます」
「ありがとう」
メリアは柔らかく微笑むと出されたお茶をティーポットから二人のカップに注ぎ、優雅に飲み始めた。窓際で柔らかな日の光を浴びながら優雅にお茶を飲む美少女。実に画になる。
「どうしました? 勇者さまもお飲みになられては?」
「あ、ああ……」
見とれていたなど言うわけにもいかず、イリスは慌てたようにメリアが淹れてくれたお茶に口を付けた。
「うえっ! げふっ、げふっ!」
あまりの苦さに思わず吐き出してしまった。初めてブラックでコーヒーを飲んだときよりも苦かった。
「ふふふっ、勇者さまにはまだ少し早かったかもしれないですね。お砂糖、入れましょうか?」
メリアのその言い方が子供扱いされているようで気に入らなかったので、砂糖は断った。
改めてカップに口を付ける。努めて平気を装ってお茶を喉に流し込むが、押し寄せる苦みに知らず知らずのうちに眉間に皺が寄ってくる。
メリアはそれに気づいていないはずがないが、それを指摘してイリスをからかうようなこともなく、優雅にお茶を飲んでいる。
その後、お茶と一緒に出されたお茶請け――これは甘かった。どうやら、お茶と一緒に食べて苦みを和らげるとあとから気がついた――を食べたりしていると、再びさっきの修道女がやってきた。
「教皇猊下がいらっしゃいます」




