よくできる働き者のメイドにゃ!
二人はろうそくを手に持った質素な服装の修道女に案内されて奥へと進んでいった。礼拝堂からしばらくは薄暗くてシンプルな作りの回廊が広がっていたが、やがて礼拝堂へと続く廊下にも勝るとも劣らぬ豪華な装飾が施された巨大な塔の内部に続いていた。
「こちらはかの巨匠、ミートゥーラによる壁画でございます」
塔の内壁には巨大な絵が描かれていた。説明によると、神が世界を創造する図だそうだ。中学の修学旅行で今日との寺めぐりを抜け出して居合わせた他校の修学旅行生と対戦ゲームに耽っていたイリスには興味のない話だった。
明かりの差さない塔の内部にあって壁画を見るのに苦労しない明るさを提供しているのは一定間隔に置かれている燭台だった。
その代償として大量に生み出される煤を払うために、あたりには多くのメイド服を着た女性達が掃除をしている。
ここを行く部外者は重要人物だけだからだろうか、メイド達は掃除の手を休め、イリス達に頭を下げている。
「庶民の出としては少々居心地悪いんだけどな……」
隣を歩いているメリアは堂々としたものである。やはり女騎士ともなるとかしずかれているのにも慣れているのだろうか。
壁画は途中何回か切り替わり、神が建国の祖ユーシェスを西大陸に導く図とやらまでやってきた。何とはなしにその絵を見ながら歩いていると、メイドの一人と目があった。
「あっ、勇ミャにゃ! 昨日ぶりー!」
そのメイドは隣で頭を下げていた先輩らしきメイドに慌てて頭を掴まれて下げさせられ、ジタバタしている。しかし、見間違いようもない。昨日イリスに助けられたり、イリスを助けたりした猫耳メイド、ミャーリーだ。
「ミャーリーじゃないか。ホントに教皇宮で働いていたんだな」
「ミャーは教皇宮のメイドだって言ったにゃ。よくできる働き者のメイドにゃ! えっへん! 勇ミャは何しに来たにゃ? ミャーに会いに来たのかにゃ?」
「こらっ、静かになさい!」
「何にゃ! ミャーは勇ミャとお話し中にゃ! 放すにゃ!」
先輩メイドが頭を押さえつけている手を払いのけ、ミャーリーが騒ぎ始めたので、ねこはメイド数人がかりで奥へと連れ去られてしまった。
「はは……。相変わらずですね」
「まあ、元気そうで良かったよ」
連れ去られていくミャーリーを見送っていると、案内役の修道女が歩き始めた。
「こちらです。どうぞ」
メイド達がかしずく中、修道女に連れられて進んだ先は、談話室のような部屋だった。




