困ってる人を助けるのが教会の教えにゃ!
「間一髪だったよ。ありがとう、メリア、そして――」
駆けつけたメリアによって解放されたイリスはそばに立つもう一人の人物を見た。
「当然のことをしたまでにゃ! 困ってる人を助けるのが教会の教えにゃ!」
そこにはドヤ顔で胸を張るねこ娘が立っていた。
彼女はイリスの指示を忠実に守ってくれた。その人間以上に鋭い嗅覚と聴覚を最大限に発揮し、イリスを探して聖都を走り回るメリアに接触、ここまで連れてきたのだ。
そのあとはメリアの独壇場だった。剣を抜きバーサーカーと化したメリアに適う人さらいなどいるはずもなく、一味はそのアジトごと一瞬で壊滅。すでに人さらい達は本日二度目の登場となる神官騎士達によって連行され、今ここにいるのはイリス達三人だけである。
「私からもお礼を言わせてください。ミャーリーさんがいなければ今頃勇者さまはどうなっていたことか……」
どうやら、ねこ娘の名前はミャーリーというらしい。しかしメリアよ、恐ろしい想像をするんじゃないとイリスは身体を震わせた。
「みゃはは! それほどでも……あるかにゃ? みんな、もっとミャーのこと、褒めてもいいんにゃよ?」
などとどんどん調子に乗ってくるミャーリーに段々腹が立ってきたので、イリスは疑問に思っていた事実を放った。
「いやでもお前さ、お使いの途中じゃなかったの? いいのか、こんな所で油売ってて」
「みゃっ!?」
ミャーリーは尻尾を踏まれた猫のような声を出して軽く一メートル半は飛び上がった。
「忘れてたにゃ! すぐにいってくるにゃ!」
そして実に猫らしい猛スピードでその場を立ち去ってしまった。
「やれやれ。静かになった」
「あはは……。賑やかでしたね。それにしても……」
メリアは西の空を見た。あたりは彼女自身によってほとんど更地と化してしまったので空がよく見える。
「すっかり遅くなってしまいましたね」
空はすでに夕日の赤から夜の黒へと変わりつつあり、どう考えても今日中の教皇宮訪問は不可能になってしまった。
「まあ、仕方ないさ。また明日改めていこう」
「そうしましょう。そうだ、勇者さま。あのお魚屋さんに戻ってお魚を仕入れましょう。それで、宿屋の女将さんにお魚料理を作ってもらうんです」
「……お前、わざと言ってるだろ?」
「はい……?」
何の収穫もない一日が終わり、二人は宿へ帰っていった。もちろん、魚はなしだ。




