恩を返したいんだろ?
「何してるにゃ?」
「…………!!」
叫び声を出さなかった自分を褒めてやりたいと思った。それまでの人さらいとは異なる女の子の声だった。
恐る恐る声のした方を振り返ってみると、そこにはつい先ほどまで顔をつきあわせていたねこ娘がいた。丈の短いメイド服をしているので、白いパンツが丸見えだが、もう指摘する気にもならない。
「むぐー! むぐー!」
イリスがもがいていると、ねこ娘にしては珍しく察したのか、猿ぐつわを外してくれた。
「お前、どうしてここに?」
小屋内部にいると思われる男達に気づかないように小声で問いかける。
「買い物に行ったのに何も買わずに帰ったから、怒られてもう一回買い物に来たにゃ! その途中でミャーの匂いがしたから会いに来たにゃ」
相変わらずアホだな。と思いつつも、そのおかげでこうしてコンタクトを取ることができた。
「よく来てくれた。いいか、よく聞け。メリアって覚えてるか? オレと一緒にいた女騎士だ。あいつにここの場所を教えてやってくれ。恩を返したいんだろ? 頼む!」
イリスはねこ娘に頼み込んだ。彼女が恩を返したいと言っていたことも持ち出して、全力でねこ娘を説得する。
「わかったにゃ! ミャリアを連れてくるにゃ!」
ねこ娘が勢いよく立ち上がって下手くそな敬礼をしながら大声を出したので、イリスは慌ててそれを制する。
「わっ、バカ! 声が大きい!」
しかし、その声はばっちり人さらいに聞こえてしまったようだ。
「おっと、お目覚めのようだな。ご挨拶に行くとするか」
「相手は貴族のお嬢様ですからね。ご機嫌とらねぇと」
「違ぇねえ」
ガラの悪い男どもはがはがはと笑いながらこちらにやって来ようとしている。
「行け。早く!」
「みゃっ!」
ねこ娘はそう言い残すと素早く飛び上がり、梁伝いに屋根と壁の間にできた小さな隙間から音もなく外に出ていった。
さすがは猫だと感心する暇もなく人さらい達がやってきた。男達は全部で三人。
「お目覚めですかな、お嬢様」




