騎士が護衛に付いてるような身分のガキだ
「…………」
いつの間にか眠らされていたようだ。
メリアと大通りを歩いていたところまでは覚えている。そこで急に目の前が暗くなって――今になって思い返せば、あの瞬間に麻袋でもかぶせられたのだろう――何かを嗅がされたあとの記憶がない。
そして気づけばこの状況だ。
冷静にあたりの状況を見渡してみる。
薄暗いどこかの小屋のようだ。板をつなぎ合わせて作られた壁の隙間から差し込んでくる光の加減から察するに、連れ去られてからそれほど時間が経過しているようには思えない。
その小屋の土間の上に両手両足を縛られ、猿ぐつわをされた状態で転がされている。
また縛られたのか……。
イリスは今の状況を仲間としてあてがわれた盗賊に襲われたときと比較した。
あの時と違うのは、ここは街中だということ、おそらく自分を探しているだろう騎士がいること。
あの時と同じなのは、縛られていること。実行犯が近くにいること。
姿は見えないが、おそらくイリスをさらってここまで連れてきたであろう男達の話し声が聞こえていた。イリスは耳をそばだてて状況の把握に努めることにした。
「――脅迫状は持って行ったんだな?」
「へい。今頃……がガキの出てきた宿に忍び込んで手紙を置いてきてるはずでさぁ」
「騎士が護衛に付いてるような身分のガキだ。しくじるんじゃねえぞ」
大体の察しは付いた。身代金目当てだ。
おそらく、メリア御用達の宿から出てくるときから付けられていたのだろう。高級宿から騎士を連れて教皇宮に向かう子供がそういう対象として見られない方がおかしい。
迂闊だったと思うが、今更そのことを後悔しても仕方がない。
さて、どうするか……。
前回盗賊に襲われたときは口八丁手八丁でどうにかなった。結果的には偶然通りがかったメリアに助けられはしたが、独力で惜しいところまで行くことはできた。
一方、今回は――
今回もポイントとなるのはメリアだ。あのバーサーカーに自分の居場所を伝えることができればイリスの勝利が確定する。
問題はどうやって、だが……。
大声を出すというのは問題外だ。猿ぐつわをされているし、よしんばされていなかったとしても人さらいが根城とするような場所に子供の大声を不審に思うような人物はいない。
となると……。
イリスが打開策を探って深い思考に沈んでいるまさにその最中。突然背後から声をかけられた。
「何してるにゃ?」
「…………!!」
叫び声を出さなかった自分を褒めてやりたいと思った。それまでの人さらいとは異なる女の子の声だった。




