ちょっと……苦手なだけだ!
「ご協力ありがとうございました。この男は、こちらが責任を持って処罰します」
店主の通報によって駆けつけた神官騎士達が犯人の男を引き連れていった。神官騎士が来たことによって店の前に再び集まってきた野次馬達も三々五々に立ち去っていった。
「いやー、助かりましたよ、お嬢さん。本当にありがとうございました!」
再び関係者以外誰もいなくなった店の中で、店主が大きな身体を小さくして揉み手をしながら気持ち悪い声を出してくる。イリスに対する呼び方が変わったのも気のせいではない。
「礼ならこの正義バカに言ってくれよ。最初に騒ぎを聞きつけたのはメリアだからな」
「事件を解決したのは勇者さまですよ。謙遜なさらずに」
「是非ともお礼をさせてください。そうだ! この最高級魚を食べていってくださいよ。ぜひそうしてください!」
「それはおいしそうにゃ! ミャーはありがたくいただくにゃ!」
いつの間にか起きだしてきたねこ娘が目をらんらんと輝かせながら文字通り食いついてきた。
「いや、お前何もしてないだろ……」
店主の申し出にイリスは乗り気ではない。
「ふふふっ、勇者さまはお魚が嫌いですからね」
「うるさい! 嫌いなんじゃなくて、ちょっと……苦手なだけだ!」
そんなイリスに店主が前のめりに迫る。
「大丈夫ですよ、お嬢さん! 別名“よだれが止まらない魚”とも言われるこの魚は、魚嫌いだった当時の教皇様を虜にしたと有名なものなんですよ! ぜひ一度食べていってください!」
「いやでも、これをオレ達が食べたらオッサンが一方的に損するだけじゃねーの?」
店にとって損になるという指摘をしても店主は引き下がらない。
「いいんですよ。お嬢さん達がいなかったら昨日の売り上げまるごと損するところだったんですから」
「お魚、早く食べたいにゃ!」
「さあさあ、奥へどうぞ」
「勇者さま、ひとの好意は受けておくものですよ」
三方から迫られ、魚嫌いの幼女勇者はついに折れた。
「あーもう、わかったよ! 食えばいいんだろ、食えば!」
「わーい、やったにゃ! おっさかな、おっさかな♪」
どういうわけか、一番喜んでいたのは事件解決に全く役立っていないねこ娘だった。




