真実はいつもひとつ!
「で、でもどうしてこの兄ちゃんが犯人だってわかったんだ? この兄ちゃんとは付き合いもそんなに長くはないが、これまで店の売り上げをかすめ取るようなそぶりはなかったぜ?」
「そりゃまあ、怪しさマックスの相手とは取引しねぇだろうな。おおかた、これまでは信用を得るためだったんだろうさ。メリア」
メリアは店の中にあった荒縄で男を縛っている最中だった。ロープをぐいぐいと引っ張りながらイリスの方を見て答えた。
「はい」
「この男、どこで見つかった?」
「街の検問所です。西――ペイントン湖に続く門ですね」
「やっぱりな。おおかた、まとまったカネが手に入ったから逃げ出すつもりだったんだろうぜ」
「でも、どうして街の外に出ようとする釣り人に狙いをさだめたのですか?」
メリアにそう訊かれたイリスは、我が意を得たりとドヤ顔で説明を始めた。
「観光地じゃよくあるのさ。騒ぎを起こしてそれに注意を向けてる間に盗むってな。もっとも、オレが知ってるのは観光客相手の手口だったが、まさかそれで店の売り上げを盗むとはね」
男はメリアによる戒めが効いたのか、自分が犯人だと看過されてしまったからなのか、すっかりおとなしくなっている。
「騒ぎ……? ああ! 目玉商品がなくなってこの娘と口論になった……!」
「むにゃ……?」
ねこ娘が自分の話題になったからなのか、一瞬目を覚ましてこちらを見たが、すぐに再び眠りこけてしまった。
店主が店の天井を見た。そこにはまだ釣り糸がぶら下がっている。イリスは続ける。
「なくなったのは今朝獲れたばかりの魚だった。今日はまだ店を開けたばかりでほとんど何も売れてなかった。魚が消えた仕掛けに釣り糸が使われていた。そこから、犯人はその魚を卸した本人だと当たりを付けた」
「なるほど」
イリスは縛られておとなしくしている魚釣りの男をちらと見た。
「カネを盗んだ犯人が次に考えるのは逃走だ。まとまったカネが手に入った犯人はもうこの街に留まる理由がない。だから街の外に出るんだが、手っ取り早く外に出るには許可証がある湖の方から出ると考えた」
「ああ、釣り人は毎日湖に出て仕事をするわけだから、湖方面の出入り許可証を持っているというわけですね」
「そゆこと。そして、魚を卸すのは店が開く前の早朝だから、店が開いた後に街の外に出るやつなんているはずもない。普通に考えればな」
「すごいです! そこまで考えていらっしゃったとは! さすがは勇者さま!」
メリアの過剰にも思える褒め言葉にイリスは鼻を高くして宣言した。
「これで事件は解決した。真実はいつもひとつ!」




