濡れ衣にゃ! エンザイにゃ!
大通りを歩くこと数分、メリアが突然立ち止まった。
「どうした?」
「聞こえませんか? 何かトラブルみたいですね」
そう言われても雑踏の中で特定の声だけを聞き分ける能力などイリスにはない。メリアの方を見上げてみると、それほど緊張した様子ではない。とりあえず危険が差し迫っているということではないのだろう。
「少し様子を見に行きたいのですが、よろしいですか?」
一週間近く一緒に旅をしてきてわかったのだが、このメリア、理屈に合わないことや人が困っていることを見過ごすことのできない“正義バカ”なのだ。今回のこともその持ち前の正義感が首をもたげているのだろう。
面倒なことをと思わなくもないが、そのおかげでイリス自身が救われているので何もいうことができない。
「ああ、かまわないよ」
そう答えると、正義の騎士はにっこりと笑ってイリスがついて行けるくらいの速度で走り始めた。
「だーかーらー! ミャーは何もしてないにゃー! 濡れ衣にゃ! エンザイにゃ!」
メリアが駆けつけたのは大通りから脇道に入った先の店だった。観光客向けの店ではなく地元民向けの店、魚が多く置いてあることから、おそらく魚屋なのだろう。よく見ると、看板にも魚の絵が描いてあった。
「うるさい! 店の中にはお前しかいなかったじゃないか! この泥棒猫!」
「やってないものはやってないにゃ! 放すにゃー!」
魚屋の前に集まっている野次馬達をかき分けて前に出てみると、店主らしきむくつけき大男がメイド服を着た小柄な女の子の首根っこをつかんで持ち上げていた。
「おぉ、ねこ娘」
肩で切りそろえた黒髪の上にピンと立った三角形の猫耳、うねうねと動く尻尾はまさにねこ娘のものだった。そのねこ娘が首根っこを掴まれてジタバタしているから余計猫に見える。
イリスが感心していると、遅れて群衆をかき分けやってきたメリアが店主に声をかけた。
「どうしましたか?」
その声に今まで言い合っていた店主とねこ娘は一瞬鎮まったかと思うと、一斉に話し始めた。
「聞いてくれよ、騎士様! この泥棒猫が……」
「ミャーはただ買い物に来ただけなのに、いきなり……!」
イリスとメリアはお互いを見て、肩をすくめた。




