子供ほど『子供じゃない』って言うものですよ
翌朝、馬車を宿に預けたまま、イリスとメリアは教皇宮に足を向けた。
ここ聖都ペイントンは観光地でもあるため、宿から教皇宮までの間にはさまざまな店が軒を連ね、朝から人でごった返している。
「すごい人だな」
「巡礼をするにはいい季節ですからね。それに、街のすぐ外にあるペイントン湖は風光明媚な観光名所としてもよく知られています。昼になればこんなものでは済みませんよ」
「さすがは大人気の観光地ってところか……」
そんな話をしながら歩いている。二人が歩いているのはイリス達が宿泊した宿のあるエリアから教皇宮にまっすぐ向かう大通りだ。土産物屋や飲食店などが延々と続き、人々の財布を狙っている。
店で買った名物料理を軒先で食べたり、歩きながら食べたりしている人も多く、そういう人を目にしているせいか、おいしそうな匂いがあたりを漂っているようにも感じ始めた。
「何か買っていきますか?」
そんなイリアの様子を目ざとく見つけたメリアが聞いてきたが、イリスは首を振った。
「いや、朝メシ食ったばかりだからな」
家に籠もってゲームばかりしていたので、食にはあまり興味がなかった。そういうつもりで言ったのだが、メリアはそうは捉えなかったようだ。
「そうですね。間食は良くないですからね。えらいえらい」
そんなことを言いながら頭を撫でてくるので、イリスはその手を払いのける。
「オレは子供じゃない! 何度も言ってるじゃないか」
「子供ほど『子供じゃない』って言うものですよ。おひとりで盗賊も追い払えない勇者さまは私から見たらかわいい弟みたいなものです」
「うっ……」
それを言われると言葉が出ない。イリスが戦いに関しては全く無能だということはこの一週間で嫌というほど理解させられた。
「と、とにかく! 買い食いも寄り道もしない! 教皇宮へ行くぞ!」
「かしこまりました、勇者さま」
誤魔化すように宣言すると、メリアはニッコリ微笑んだ。……だだをこねる子供を温かく見守るように。イリスは深くため息をついた。




