父は人間、母はエルフのハーフエルフなんです
「今日の受け付けは終了しました。また明日お越し下さい」
聖都ペイントンの教皇宮は内外の参拝客を広く受け入れているが、さすがに日も落ちようとするタイミングでは門番に丁重に追い払われてしまった。一泊してから教皇宮を訪れるのが一般的な参拝らしい。
仕方がないので宿屋へと向かう。この聖都は宿の選択も豊富だ。
「なかなかの部屋だな」
一泊分の料金を支払って通された部屋は、それまでの宿場町とは一ランクも二ランクも上の上質な三階室だった。
空間的にゆとりをもった部屋の造りはもちろん、真っ白でシワひとつないベッドのシーツ、足が長くてふかふかなカーペット、ほどほどに落ち着いた色合いの照明、そして何より、ガラス張りの窓は道中の宿場町では一切見られなかったものだ。
「聖都に参拝に来るときはいつも利用している宿ですから。少しお安くしていただきました」
メリアがドレスの上に着用していた鎧を外してリラックスした様子で答えた。
「へぇ。よく参拝には来てるのか?」
サービスで用意してもらったジュースを飲みながらイリスが聞いた。
「はい。教会は一生に一回の参拝は最低限、できれば年に一回の参拝を求めています」
「へぇ、意外と大変だな」
メリアはイリスのテーブルを挟んで反対側に座り、イリスにジュースを注ぐ。
「私たちのような亜人は特に」
「……亜人?」
「言ってませんでしたっけ? 私、父は人間、母はエルフのハーフエルフなんです」
言って、メリアは金色の美しい髪をかき上げた。そこには、控えめに尖る形の良い耳が見えた。
「おぉ! エルフ!」
イリスを裏切った斥候のリンが森エルフであったが、金髪のエルフ姫騎士となるとまた格別である。イリスは食い入るように尖った耳と、流れるような金髪をまじまじと見つめた。
触りたい気持ちはぐっと抑えた。
「勇者さま達はそう言っていただきますね」
まじまじと見つめられて恥ずかしかったのか、メリアは顔を赤くしながらかき上げていた髪を元に戻す。イリスは少し残念そうな顔をした。
「私たち亜人は、自らの運命を自力で切り拓いた人間とは違って、その恩恵に与るだけの存在、大きな恩があるのです」
「……どういうこと?」
イリスのグラスにジュースを注いでいた器をテーブルに戻し、メリアは改めて椅子に深く腰掛け、背筋を伸ばした。イリスもそれに釣られてメリアの目をじっと見る。
「勇者さまは、その昔人類は皆東大陸に住んでいたことをご存じでしょうか?」
イリスは無言で頭を振った。
「その昔、私たちの祖先はすべて東大陸に住んでいました。その時から東大陸は帝国が治め、今と同じように苛烈な統治で他種族を弾圧していたんです」




