勇者が聖都に来たからには教皇様にご挨拶しなければならないでしょう
メリアを仲間にした後の旅は順調そのものだった。
翌日からは朝宿場町を出て夕方次の宿場町に着くという旅程を繰り返したので、初日のように野宿することもなくなったし、獣の群れや野盗に襲われることも少なくなった。
稀に襲いかかってくる事があったとしても剣を抜いたメリアの力は圧倒的で、まるで砂場の砂を蹴散らすかのように道中の障害は排除された。
バーサーカーモード――とイリスは呼んでいる――になったメリアにイリスの声はきちんと聞こえているようで、イリスの指示にはしっかりと従うことも確認できた。
そして王都を出てから一週間後、二人は巨大な宗教都市、聖都ペイントンにたどり着いた。
「ここが聖都か……すげーな」
検問所で入城の許可を得たイリスとメリアは聖都の中に立ち入った。
初めて見る宗教都市の威容にイリスは馬車の御者台から身を乗り出し、首が取れるのではないかと思えるほどキョロキョロしている。
「ふふ。勇者さまは聖都は初めてでしたね。聖都に始めてくる人はみな、そうなりますよ」
聖都ペイントンは建物の高さこそ王都ルーシェスには及ばないものの、石造りの整然とした建物が限りなく続いている。
城塞という限られた範囲内にコンパクトに建物が詰まっているのが王都だとすれば、聖都は広大な土地を生かして街が延々と広がっているという違いがあった。
違いはあたりを歩いている人々にも現れている。
戦士や騎士、冒険者など武器を持っている人が多く、地味な色合いが多い王都と比較して、こちらは商人が多くて色彩豊かな服を着ている人が多い。
馬車も多く走っており、聖都の人々の方が豊かに暮らしているように見える。聖都の道は石畳が整備されているのも王都と異なるところといえよう。
「それで、これからどうなさるのですか?」
そんな人混みの中でメリアが聞いてきた。
「ん? ああ……えっと……」
イリスはさらに首を左右に動かしてあたりを見渡した。しかし建物の陰に隠れて奥の様子は見えず、首を伸ばしても望み通りの結果は得られず、御者台の上に立ち上がり、揺れる馬車の上で転びそうになってメリアに抑えられながら背伸びをしてようやく夕日に染まる目的の建物を見つけ出した。
その一際大きく、そして線の多いデザインの建物を指さす。
「あれだ。あそこに行くぞ」
「あれは教皇宮ですね。確かに勇者が聖都に来たからには教皇様にご挨拶しなければならないでしょう」
メリアの同意が得られたので、馬車はそのまま教皇宮にむけて動き出していった。




