いたいけな子供をいたぶる悪党は許しません!
「そこまでです! いたいけな子供をいたぶる悪党は許しません!」
あまりにもベタベタな展開と台詞に逆にイリスは驚き、声の方を見た。
そこは、ジャン達がキャンプを張ったたき火がある丘の上に生えている木の上だった。青々と茂る木のてっぺんに立つ人の姿。
月明かりに照らされ輝く金色の髪をなびかせ、純白に赤いラインの入ったドレスがまぶしい女騎士だ。ドレスの要所要所には銀色に輝くプレートが取り付けられており、彼女の見た目と動きを損なわずに急所を守っている。
「あぁ? お貴族様のお嬢様の正義の味方ごっこなら、痛い目を見る前にお家に帰っておしゃぶりでも探してな」
「ごっこ遊びなどではありません! 私はあなた達のような悪党を懲らしめるため、国中を旅しているのです!」
謎の女騎士はびしいっと言う音が聞こえてきそうな勢いでジャンを指さした。
「今すぐにその子を解放して立ち去るなら――っと」
「な、なんだってェ!?」
女騎士は演説の最中にリンが放った矢を自分の目の前で無造作につかみ取った。そしてそのままリンの方に投げ返す。
「ひっ……!」
矢はリンの足元に突き刺さり、リンは尻餅をついた。
「人の話の最中に矢を射ってくるなんて、礼儀のなっていない人ですね」
「だからなんだ。お仕置きでもしようってのか? 面白え!」
ジャンが斧を構えて戦闘態勢になった。イリスは注意の外だ。逃げ出すなら今だが、生憎と身体に力が入らない。
「はい。悪い子にはお仕置きです。とうっ!」
「何っ、跳んだ!?」
女騎士は軽やかに跳躍したかと思うと、空中で一回転してドワーフの頭上を越え、その向こう側に着地した。
音もなく地面に降りる姿と、少し遅れてふわりと舞うスカートの裾にピンチになっているはずのイリスでさえ一瞬見とれてしまった。




