見張りは俺達三人でやるから、お前は寝てろ
ジャンが決めた野宿のポイントは街道沿いの大きな木が立っている小高い丘の上だった。
地球よりもかなり大きめの満月が夜空を照らす下、ぱちぱちと薪が爆ぜる音がそれを取り囲む者たちに安らぎを与えてくれる。
火にあぶられた獣の肉がじゅうじゅうと油を滴らせながら焼かれて香ばしい匂いが鼻腔をくすぐらせている。くう、と知らず知らずのうちにイリスの腹が鳴った。
「もう少し待ってろ」
そう言うジャンの隣ではダラーがせっせと野菜の皮を剥いて沸騰する鍋の中に次々と入れている。見た目によらずこの調理係のジャイアント族は手先が器用なのかもしれない。
野宿の準備を始めるといつの間にかいなくなっていたエルフのリンが小さなイノシシに似た動物を狩って戻ってきた。
ダラーはそれを受け取ると手早く捌いてたき火であぶり出した。今夜の食事はこれだというが、あぶった肉だけというのはどうにも味気ないので、イリスは壺から芋や根菜、それに味付け用のスパイスを提供してやった。
今たき火にかけられている鍋で煮ているのがその野菜だ。そこにダラーはスパイスを入れて煮込んだ後、いい感じに焼き上がったイノシシ肉を鍋に入れた。
「この匂いは……」
馴染みのある匂いがイリスの鼻をくすぐった。少しして野菜が十分柔らかくなっているのを確認したあと、ダラーが椀によそって渡してくれた。
「いただきます……」
少しどろっとしたスープを口に入れると複雑な味わいの中に少しの辛み、そして肉と野菜のうまみが染み出した絶妙なハーモニーが口全体に広がっていくのを感じた。
紛れもないカレーだ。
「うまい」
思わずそう言うと、ダラーは嬉しそうににっこりと微笑んだ。
「見張りは俺達三人でやるから、お前は寝てろ」
食事が終わったあと、ジャンがそう言ってきた。「いいのか?」と聞いたが、「ガキに番をさせるほど落ちぶれちゃいねえ」と言ってきたので、言われるままにすることにした。
馬車の荷台の中で、壺から取り出した毛布にくるまって眠る。
一日馬車に揺られていたせいか、それとも初めての戦闘で柄にもなく緊張していたのか、イリスはそのまますぐに眠りに落ちていった。




