俺を殺したければいつでも来い
「その辺にしといてやれよ」
それなりに豪華な鎧を身にまとった茶髪の青年だ。いかにもひとの良さそうな顔をしている。
「あ? 誰だテメエ?」
「第84勇者のもっちんだよ」
ヴィルヘルムは仲間のレンジャーをいたぶるのをやめて勇者の方に向き直った。
「その84番目がなんの用だ?」
「いや、さすがに見てて気分が悪いなって」
「てめーの気分を俺が思いやってやる必要はねーだろ」
「そうだけどさ、ほら、他の勇者も見てるからさ、それくらいにしといたら?」
言われて気づいたが、すでに帝国軍は退却しており、ヴィルヘルムの周りを遠巻きに他の勇者たちとその仲間たちが取り囲んでいた。
「だからなんだ? こいつらは俺の所有物だ。俺が何をするのも自由だろ」
「所有物って……いやそれはさすがに」
「なんだテメエ? もしかしてNPCに愛着持っちゃうタイプ?」
「そういうわけじゃないけど、でも見てて気分悪いんだよ」
「だーかーらー」
ヴィルヘルムはもっちんの肩を抱いて顔を寄せる。もっちんはあからさまに嫌そうな顔をしている。
「俺のNPCはAIの性能が悪いから、躾けてるわけ。わかる?」
「い、いや……しかし……」
茶髪の勇者はヴィルヘルムから離れると、愛想笑いを始めた。
「まあ、君がそうしたいならそうするといいよ。悪かったね、立ち入ったりして」
あからさまに面倒くさそうな口ぶりで第86勇者は立ち去っていった。周囲を取り囲んでいた群衆もいつしかいなくなっていた。撤収指示が出たのだ。
「おい、フリージア」
「は、はい……」
「今夜はお前が相手をしろ。今日の罰として、徹底的にかわいがってやる」
「ひっ……! わ、わかりま……」
怯えるフリージアがヴィルヘルムの指示に答えるよりも前に、ヴィルヘルムの後方から鈍い音がした。
「フリージアに……そういう汚い行為は……させない……っ……!」
これまでヴィルヘルムの行いを後ろで黙ってみていたバニラが背後から渾身の一撃をヴィルヘルムに食らわせていた。
しかしヴィルヘルムは涼しい顔でそれを素手で受け止めている。
「へっ……! 美しい姉妹愛ってか? 反吐が出るぜ!」
ヴィルヘルムが気合いを入れると彼が掴んでいたバニラの剣が粉々に砕け散った。
「なっ……!」
驚愕に顔を歪めるバニラ。
ヴィルヘルムはそのまま無防備にバニラに詰め寄った。初めて会ったあの日、バニラのミスリルの鎧を引きちぎった日のことが思い起こされた。
「これでわかったろ? 俺に不意打ちは無駄だ。パンジーの動きは全くの無駄どころか、俺の命令を無視した罪だけが残ったってワケだ」
そしてヴィルヘルムは倒れたまま、意識を失い動かないパンジー、それを魔法で治癒しているフリージア、呆然とヴィルヘルムの前で立ち尽くすバニラに対して高らかに宣言した。
「俺を殺したければいつでも来い。寝ているときでも、ベッドでヤっているときでもいつでも大歓迎だ。ただし、失敗したときはそれなりのお仕置きを覚悟しておけよ。ははははははははは!」
ヴィルヘルムはそのまま大股でカールトン郊外に用意されたキャンプ地の方へと歩いて行った。三姉妹もバニラがパンジーを背負い、仕方なくそのあとを追っていく。
その後、絶望に沈んだ三姉妹が第1勇者に襲いかかることはただの一度もなかったという。




