俺の命令は絶対だ!
「きゃっ……!」
周囲を帝国軍の死体が取り囲む中、パンジーが倒れた。短いスカートがめくれ上がり、白い下着が丸見えになる。しかしパンジーにそれを気にする余裕はない。
敵軍にやられたのではない。ヴィルヘルムが彼女の顔を殴ったのだ。
「馬鹿野郎!」
倒れたパンジーをヴィルヘルムが足蹴にする。
「俺の言うことが聞けないってのかよ!」
身体をまるくしてうずくまるパンジーに対して我を忘れたヴィルヘルムの蹴りは容赦がない。彼の蹴りは魔物でさえ一撃で屠るものだ。パンジーがいくら歴戦の冒険者で防御力を強化していてもたまったものではない。
「お前は! 俺の! 命令が! 聞けないって! いうのか!」
ひと息ごとにヴィルヘルムの強烈な蹴りがパンジーを打つ。
「ご、ごめんなさい……こめん……な……げふっ……」
当たり所が悪かったのか、パンジーは血を吐きながらヴィルヘルムに謝罪するが、ヴィルヘルムの耳には届いていない。
「や、やめてください! このままでは死んでしまいま……ぐっ……!」
そんな姉の姿を見かねたフリージアがたまらずパンジーを庇う。
勢い余ってヴィルヘルムの蹴りがフリージアの脇腹に一発入ってしまい、フリージアがうめき声を上げる。後衛職であるフリージアにとってその蹴りは姉以上に堪えるはずだ。
しかしエルフの賢者は気丈にも姉に覆い被さりながらも勇者の方を見る。
「お姉さ……姉は敵がブレイヴの後ろから不意打ちをしてくるのを助けようと……」
「あぁ?」
「ひっ……!」
ヴィルヘルムがひと睨みすると、フリージアは怯えたような声を上げた。
「言ったよなぁ? 傷は絶対に付けるなって」
「…………」
怯えて堪えられないフリージアにヴィルヘルムはなおも詰め寄る。
「言ったよな? え?」
「は、はい……」
「なのにこいつのこれは何だ!」
ヴィルヘルムはパンジーを指さした。
そこにはヴィルヘルムによってボコボコにされ、意識を失ったパンジーの姿。体じゅうに内出血のものと思われる青あざを作っていたが、それ以外にただ一箇所、左の頬にうっすらと切り傷があった。言われなければわからないレベルであったが。
「こいつは俺の命令を無視して出しゃばった挙げ句、顔に傷を付けた!」
「で、でも……」
「俺の命令は絶対だ! 指示に従えないようなクソザコAIのNPCはいらねーんだよ!」
ヴィルヘルムがフリージアもろともパンジーを蹴り上げようとしたとき、ヴィルヘルムの肩を誰かが掴んだ。
「その辺にしといてやれよ」
それなりに豪華な鎧を身にまとった茶髪の青年だ。いかにもひとの良さそうな顔をしている。




