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お前には無理だ

 クレーターの中、メリルはなおも立ち上がろうとするが、すでに身体にかなりのダメージが来ているのだろう、震える腕は彼女自身の華奢な身体すら支えることができず、どうと倒れ込んだ。


 剣を持つ握力もすでに失われているのだろう、『泉の女神』が彼女の手からこぼれ落ちた。

 からん、という乾いた音が周囲に響いた。


「終わりか?」

 うつ伏せに倒れるメリルの側までやってきたヴィルヘルムは、無造作にメリルの身体を足でひっくり返した。


「がはっ、がはっ……」

 メリルは口から血を流して咳き込んでいる。その瞳も虚ろだ。もはや身じろぎすることすらできない。




「わ、わたしもお手伝いした方が……いいと思うの……」

 メリルとヴィルヘルムの戦いが始まった後、イリスたちは危険を避けるためにくぼ地の高台に逃れていた。


「みゃ、ミャーも……」

 そう言う二人だったが、明らかに腰がひけている。


 無理もない。

 岩山のゴーレムを一刀のもとに両断し、山のように大きなリクガメの腹を割く人外の強さを誇っていたあのメリルが、ヴィルヘルムを名乗る男にいいようにあしらわれているのだ。


「止めておけ、お前には無理だ」

 そう言ってイリスは歩き出した。


「ゆ、勇ミャ……?」

 イリスは振り返らず、背後の仲間たちに指示を出す。


「デルフィ。いざというときは眠りの雲(スリーピングクラウド)で全員眠らせろ。明日の朝にカーンが来ることになっている。タイミングは任せた」

「わ、わかったの……」


「みゃ、ミャーは?」

「ミャーリー、お前はデルフィを守ってくれ。魔法を発動する時間だけ稼げればいい」


「わかったにゃ!」

「勇者さんはどうする……の?」

 イリスは立ち止まり、仲間たちの方を振り返った。


「オレは……」

 その顔は不敵な笑みに満ちていた。それを知る者はこの世界にはいなかったが、かつてイリスが三倍の戦力差を覆した『イフィーデルミナの奇跡』を起こしたときの箕浦剛範と同じ顔をしていた。


「あのいけ好かない野郎をぶっ潰す」


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