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もはや貴方とは語るべき言葉を持たないようです

「お前、どこかで見たことのあるクソガキかと思ったが、城の闘技場に紛れ込んだガキじゃねーか」

 言われて記憶の糸をたぐり寄せてみる。最初にこの世界に落とされたときに突然斬りかかってきた粗暴な男だと思い当たった。


「俺に追いかけ回されてピーピー泣いてたなぁ、確か」

 ありもしない男の過去話にエルフたちは「ださーい」だの「かっこわるーい」だの言いたい放題だ。


「ああ、思い出したよ。オレにまんまと誘導されて布を頭から被ったんだったな。あれはなかなかナイスなダンスだったぜ」

「ンだと、てめえ……!」


 男が右手に持っていた剣を肩にかつぐ。それに合わせてメリアとミャーリーがイリスを庇うポジションに移動した。一触即発だ。


「それよりも今の状況を聞きたいんだが」

「あァ? なんでテメーみたいなクソガキが仕切ってんだよ?」


 男がすごむがイリスは無視して話を続けた。

「あんたらが来たときにはもうこうなっていたのか? 犯人を見なかったか?」

「はぁ……?」


 男がイリスをバカにしたような声で仲間のエルフ達に言う。

「こいつ、何言ってんだ? アッタマ悪いんじゃねーの?」

 女たちとともにゲラゲラ笑う。イリスは奥歯を噛みしめて怒りを堪えた。


「これは俺たちがやったんだよ。俺たち以外にこんな数の敵、倒せるワケねーだろうがよ!」

「お前達が――」

 イリスの言葉を遮るようにメリアが前に出た。


「あなた達がここの人全員を殺した、そう解釈しますが、間違いありませんね?」

 メリアの気迫に取り巻きのエルフたちは一瞬たじろいだが、男は嫌みったらしいにやけ顔を浮かべたままだ。


「そう言ってるが、聞こえなかったか? それとも、言葉が通じねーのか? 美人のわりに残念なねーちゃんだ。栄養は全部胸に行って頭は空っぽってか? あとで直接触って確かめてやらぁ」

 男の言葉に再びエルフたちが笑う。


「敵の軍勢が集まって攻撃準備をしてたから俺たちが全滅させた。てめーらに突っかかられる筋合いなんてねーんだよ」


「……るしません」

「あァ?」

「絶対に、許しません!」

 メリアは怒りに震えていた。


「ここは、彼らは、かつて帝国兵だった者たちが武器を置き、自分たちだけで新しい暮らしを営もうと自分たちだけで作った街だったのです。帝国の圧政から逃れ、平和な暮らしを築こうとした無辜の人々を手にかけるなど、それは悪の所業!」


「何だよ、捕虜収容所だってか? だったらそう書いておけよな。日本語でな!」

 男はゲラゲラと笑う。何が面白いのか、イリスにはさっぱりわからなかった。


「もっとも、書いてあっても全滅させるがな! 俺の経験値になった方がこいつらも幸せに決まってるさ!」

 そう言って男は傍らに倒れていた下半身が蛇の女性の遺体の頭を踏みつけた。

 ぐしゃりという嫌な音とともに、かつて見知った女性の身体は尊厳を傷つけられた。


「もはや貴方とは語るべき言葉を持たないようです……」

 メリアが男を睨みつける。しかし男は相変わらず涼しい顔だ。


「だったらどうする? ここで斬り合うか?」

 メリアは男から寸分も視線を動かすことなく、イリスに聞いた。


「勇者さま、ご許可を」

 言うまでもない。戦闘の許可だ。


「ああ。しかし、殺すなよ」

 ここまで来て引き返せるものではないことは百も承知だった。


「感謝します」


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