何だガキじゃねーか
かつては整備された石畳であっただろうそこに馬車を止め、イリスは荷台からかつて捕虜達の街だったその場所に降り立った。
そこはまだ鎮火してから時間が経っていないのか、むせかえるような熱気と揺らめく空気、そして肉の焼ける匂いが辺りに漂っていた。
「何を……」
イリスは奥歯を強く噛みしめた。そうしなければ怒りに我を忘れてしまいそうだったからだ。
これまでの人生でこれほどの怒りを覚えたことはなかった。イリス自身、別に自分が淡泊な人間だとは思っていなかったが、ここは平和な日本とは異なり、戦時下の異世界だということをまざまざと思い知らされた。
「ここで何をしている……」
その言葉を絞り出すのに全身全霊をかけなければならなかった。
死体の山の中央に立っている四人組。彼らがこの状態を引き起こしたかはまだ確定していない。そう自分に言い聞かせてギリギリのところで冷静さを保つ。
「何だ……?」
四人組のうち、きらびやかな鎧を身にまとい、豪奢な装飾が施された剣を持つただひとりの男が口を開いた。
「敵かと思ったら……何だガキじゃねーか」
その一言にイリスは理性が吹き飛ぶのをはっきりと自覚した。
しかし――
「勇者さまに対して無礼ではありませんか」
イリスが爆発するのを抑えるかのようにメリアが男の視線を遮るように前に立った。
「勇者……?」
イリスから彼の表情を窺い知ることはできなかったが、その声は明らかに嘲笑の色が色濃く含まれていた。
「おいおい、このクソガキ、勇者らしいぞ」
男が笑うのに合わせて周りの女たちも笑う。「最近の子供は身の程を知らない」だの、「あのカールトンの戦いをくぐり抜けてきたとはとても思えない」だの「おおかた逃げ回っていたんでしょう」だの、言いたい放題だ。
「どうせどこかの貴族のガキが物見遊山で来たんだろうぜ」
男の言葉に仲間の女たちがつられて笑う。
一人は大きな弓を持った金髪のエルフの女。もう一人は大きな杖を持った金髪のエルフの女。最後の一人は大剣をかついだこれもやはり金髪のエルフの女だ。
女はどれもはっとするような美人――エルフだから当然かもしれない――の上に大きなおっぱいをこれでもかと強調するような格好をしている。ビキニアーマーなんて大昔の2Dゲームでしか見たことがない。
こいつ、仲間をハーレム要員か何かと勘違いしているのかと皮肉のひとつも言いたくなったが、やめた。
イリスの前に立つメリアも、隣に立つメイド服のミャーリーも、そして目立たないがローブを身にまとったデルフィニウムもそれはそれは立派なものを持ってる美少女だからだ。
イリスはそっと自分の胸に手を当ててため息をつく。そこには、十歳児相当のものしかない。
(いや、オレは中身男なんだから、自分の胸があってもなくてもどうでもいい)
と言い聞かせるが、どうにも釈然としないものがある。
「ん……?」
そんなことを考えていると、イリスの方をのぞき込んだ男が何かに気づいたようだった。
「お前、どこかで見たことのあるクソガキかと思ったが、城の闘技場に紛れ込んだガキじゃねーか」




