馬車を発進させろ! 急ぐんだ!
「みゃっ!?」
御者席に座っていたミャーリーが何かに反応した。頭の上のねこ耳を盛んに左右に動かして警戒している。馬車が停止した。
「どうしました?」
メリアが御者台に身を乗り出した。客車の中のデルフィニウムも杖を握りしめる。馬車内に緊張感が走った
「聞こえるにゃ……。誰かが戦っているのにゃ」
「戦ってる? どこからだ?」
嫌な予感がする。最悪の予想が頭をよぎる。
しばらく耳を動かして遠方の様子を探っていたミャーリーが手を耳に当てたままイリスの問いに答えた。
「この道の先の方……収容所の方にゃ!」
「!!」
「ちいっ……! ミャーリー! 馬車を発進させろ! 急ぐんだ!」
「わ、わかったにゃ!」
ミャーリーが鞭を鳴らし、整備されたばかりの山道を馬車が爆走する。
「これは……」
捕虜達の街――ウェストブリッジフォードを一望できる高台にまでたどり着いたときに広がる景色を見て一同は絶句した。
周囲の岩山よりも一段低くなったくぼ地は、もとはカルデラだったのだろうか、直径一キロくらいの円形の地形になっている。
そのくぼ地全体に石と木で作られた建物が雑然と建てられている。
いや――建てられていたとした方がいいだろう。
囚人達が数週間かけて建設した彼らの家、あるいは仕事場、あるいは楽しみのための場所――そういったものはすべて破壊されていた。
石でできた家は粉々に崩され、木の柱は燃やされてすべて炭化している。
そしてくぼ地に散らばる数多の死体。
ダークエルフのもの、ドワーフのもの、獣人たちのもの、ゴブリンのもの、オークのもの、巨人のもの、そして――ラミアのもの。
それらはほとんどが黒く焼け焦げ、あるいは酷く損壊していた。
生き残るものは誰ひとりとしていなかった。
いや――それは正確ではない。
くぼ地の中心、死体の山の中心に立つ四つの影。
馬車は、イリスたちは、最大限の警戒で山道を下り、収容所に入る。
「ブレイヴ」
「わかっている」
死体の中心にある四つの影は当然こちらの動きに気づいていて、警戒態勢を崩さない。
その中の一人、『ブレイヴ』と呼ばれた人物が口を開いた。きらびやかな鎧を身にまとい、うっすらと光り輝く剣を片手に持つ青年だ。周囲の二人と異なり、リラックスしたように立っているが隙は全く見当たらない。
「誰だテメエら? 敵なら容赦しねぇ」
ひと睨みで馬車を破壊しそうなほど鋭い視線がイリスの乗る馬車を貫く。
その視線の中、仲間たちとともにイリスは馬車を降りた。




