お前はしかしボットか!
「危険です! どうか、お考え直しを」
イリスが馬車に乗り込んでからもカーンはこの調子だった。
「いや大丈夫だろ。そんなことをしてもメリットないし、メリアも連れて行くしな」
「お任せ下さい。何があっても勇者さまをお守りします」
「し、しかし……。いくら姫様でも数千にもおよぶ捕虜達に一斉に襲いかかられては……」
「そんときにはデルフィにまた眠らせてもらうさ」
「わかったの!」
「いや、でもしかし……」
「明日の昼になっても戻らなかったら様子を見に来てくれ」
「しかし……」
「あー! お前はしかしボットか!」
イリスはカーンの言葉を遮るように馬車の扉を閉めた。
「ミャーリー、出してくれ」
「わかったにゃ。ハイ・ヨーにゃ!」
「ああっ、勇者さま……!」
狼狽えるカーンをよそに、イリスを乗せた馬車は捕虜収容所――彼らが言う所のウェストブリッジフォードの街――へ向けて走り出していった。
ヴレダ要塞から捕虜達の街へは山道を歩いて半日くらいかかる。当初は徒歩でしか向かうことができなかったが、今では捕虜達の働きによって道も整備され、馬車が通れるようになっていた。
馬車に乗れば歩きの遅いイリスであっても数時間でたどり着くことができるほどの距離だ。
ヴレダ要塞が帝国軍の手にあったときに現場指揮官だったラミアの誘いで彼らが新しく作った街で開催されるパーティに向かうイリスとその一行。
王都からカールトンへ向かう時に与えられた馬車と比べてかなり豪華で乗りやすい馬車に変わっているが、引いている馬は変わりない。イリスにとって最も付き合いが長い仲間といえる。
馬車の窓から何気なく外を見る。窓から見えるのは相も変わらず『世界の屋根』を構成する山々とそこに根を下ろす木々、さらにその上の青空だ。
暢気なものだ。そんなことを考えていたその時――




