アナタは不思議な人ダナ
イリスは声の主が座るベッドの方へと移動した。
厳重に下半身をそのベッドに縛り付けられている女が声の主だ。
多くの捕虜達はベッドに片足を鎖で縛られているだけだが、この捕虜は下半身全体が鎖でぐるぐる巻きにされている。彼女には足がなく、下半身全体が蛇だからだ。
「あんたがここの司令官?」
イリスの問いに女捕虜は首肯した。
「ヴレダ要塞の最高司令官は本国にいるデモン族の貴族ダガ、現場指揮官はワタシだ」
「イリスだ。一応今のヴレダ要塞の最高司令官ってことになってる」
その言葉に蛇の捕虜は驚いたように目を大きくしたが、すぐに元の理知的な表情に戻った。
「ウィルトゥールルティンガーベルンスト・アッケンベルンスタイン。帝国軍司令官だ」
「うぃるとぅ……?」
「部下達はラミア隊長と呼んでイル。ラミアと呼んでクレ」
「わかったよ、ラミア。話のわかる人で助かる」
「話がわかるかどうかはアナタ次第だ、イリス司令官。それで、ワタシになんの用ダ?」
ラミアは少しだけ身体から力を抜いたように見えたが、それでも油断ならない表情を崩しはしない。
「あんたの部下の話だ」
「部下の……? 聞コウ」
イリスはこの数日で目覚めた捕虜が暴れ出す事があることを話した。ラミアはそれを黙って聞いていた。
「ソレデ? ワタシにどうしろと?」
「目覚めた捕虜達を説得して欲しい」
単刀直入に言った。しかしラミアの表情は変わらない。
「ソレは無理な話ダ。暴れる者は戦わずして負けたことが認められないのダ。帝国では戦わずして負けることは恥ダ」
「だからって一人で暴れても多勢に無勢じゃねーの?」
「捕虜になって帝国に戻り、戦わずして敗北したと後ろ指を指されるよりはいいと考えてもおかしくはナイ。そもそも――」
ラミアはそこで話を切った。
「そもそも……? 聞かせてくれ。悪いようにはしない」
真剣に話を聞くイリスにラミアはふっと少しだけ表情を緩めた。
「アナタは不思議な人ダナ。他の叛徒どもとは何かが違ウ」
「そりゃまあ……王国人じゃなくて日本人だからな」
イリスは照れくさそうに頭をかいた。褒められるのは慣れていない。
「誰もいないノダ……」
「…………?」
「叛徒……いや、王国カ。王国に捕虜になった者で無事に帝国に帰った者は誰もいないノダ。同じ死ぬなら敵と戦ったという名誉を持って死ぬ方がマシだと考えてもおかしくはないダロウ? 小さき司令官ヨ」
帝国から王国に来た者は王国に恭順を示す者は王国内に住まわせ、そうでないものは殺す。そう聞いていた。
なんとなく聞いていただけの話だが、帝国兵の立場で考えるとそう見えるということだ。この収容所にいる者たちはそんなことをしても無駄死にであることを理解しているだけに過ぎないのだ。
「クソッ、面倒くさいことを……!」
イリスは腹立ち紛れにラミアが腰掛けているベッドを蹴った。隣に立つデルフィニウムがビクッと震え、周囲の捕虜達の空気が一変する。
「はぁ……わかったよ」
イリスは隣のデルフィニウムの方を見て言った。
「デルフィ、これからオレが言うことを全部帝国語に翻訳してくれ、ここにいる全員に伝えたい」
「わかったの」
デルフィは頷き、イリスはラミアの方を見た。
「いいか、聞いてくれ。オレはお前達――ヴレダ要塞の捕虜達の処遇を一任されている。まず最初に言っておく。お前達は帝国に帰れない。少なくとも当面の間は。それで提案したい――」




