やあ、勇者ちゃん! 調子はどうだい?
「やあ、勇者ちゃん! 調子はどうだい?」
「イリスちゃん、イリスちゃん。おいしいフルーツが入荷したんだ。寄っていかない?」
「もうすぐオレの家ができるんだよ。できたら遊びに来てくれよな」
「ゆうしゃさまー、あそぼー!」
勇者が歩くとそこは歓声に包まれる。人付き合いがあまり得意ではないイリスは適当にあしらいながら目地の建設具合を確認していく。
「ふむ。特に問題はなさそうだな」
などと言いながら歩いていると、目の前に小さな影が降り立った。
「みゃっ。勇ミャなのにゃ」
デルフィニウムとともに敵の要塞であったヴレダ要塞に降下したミャーリーは、デルフィニウムの威力も範囲も、そして敵味方も手加減のできない睡眠の雲の魔法によって要塞の敵すべてとともに眠りについた。
そんなミャーリーが目を覚ましたのはそれから二日後のことであり、術者であるデルフィニウムをのぞくと最も早く目覚めた一人だった。
何故ミャーリーが最も早く目覚めたかは不明だが、普段からよく寝てるからだろうとイリスは見ていた。
「なんだ、お前か」
「なんだとはなんにゃ! ミャーはこうやって今日も朝からお仕事してるにゃ。遊び歩いている勇ミャとは違うにゃ!」
「仕事? お前が?」
「ムキャーッ! 馬鹿にするにゃ! ミャーはこう見えて真面目に仕事するタイプにゃ!」
「それ、自慢するようなことか? それで、何の仕事をしていたんだ?」
ヴレダ要塞を落としてからイリスは仲間たちにはこれと言って指示を出していなかった。要塞を落とした功労者である彼女たちにはしばらく休んでもらおうと思っていたからだ。
「私が見回りの仕事を頼んだんですよ」
ミャーリーの後ろから歩いてくる人物に目が留まった。白地に赤のワンポイントのいつものドレスに身を包み、流れるような金髪と自ら光を発するような碧眼。周囲の人々が老若男女問わず振り返ってしまうような美少女。しかもこの国の姫ときた。
もちろんメリアだ。
しかしそんな美少女を前にイリスは素っ気ない。
「見回り? まあ、確かに砦の外からいろいろ人の出入りがある今の時期はスパイも入りやすくなるかもしれないが……大丈夫なんじゃないか?」
このヴレダ要塞は山々の間に偶然できた唯一の山越えルート上に建設されているために要塞の南北は急峻な山に囲まれている。イリスがやったように空からの侵入を除けば、王国側ルート以外に人が入る隙はない。
「いえ、スパイの侵入は気にしていないのですが、多くの人々が出入りするとなると必然的に治安も悪くなってくるのです。この一週間をみても空き巣が二件、ひったくりが七件、暴行が十三件、放火未遂が一件発生しています」
「放火未遂!? マジか……全然知らなかった」
メリアは自他共に認める正義バカだが、正義バカでないと気づかない部分もあるだろう。
「それでミャーリーさんにも見回りを頼んでいたのです。屋根の上からの方が良く見渡せますし、上から見てる人がいることで人々に安心感を与えることもできます」
そう言われてみれば先ほどからミャーリーは街を行く人々にしきりに話しかけられている。皆笑顔なのが特徴的だ。
「なるほど……。しかしお前達にいつまでもこういったことをやらせるわけにもいかないからな。なんとかしないと」
「はい。ですので王都に治安維持の人材を派遣してくれるよう連絡をしました」
「おお、さすがお姫様」
カールトンから来てもらった兵士達は主に国境警備のためのものだ。国境警備と域内での治安維持では求められる動きが異なるので兼任はなかなか難しい。
「にゃっ――!」
ミャーリーが突然街の奥の方へと注意を向けたかと思うと、何か重いものが落ちたような鈍い音と、少し遅れて何者かの叫び声が聞こえてきた。
「何だ?」
「町外れの方です。行ってみましょう!」
人の波をかき分けてイリス、メリア、ミャーリーの三人は音のした方へと走り出した。途中、メリアがイリスをかついでいった。イリスの走りが遅すぎる、いつものことなのだが、かつがれるイリスは憮然としていた。




