ちょっとしたもんだろ?
帝国軍がこのブレダ要塞をどう運用していたのかはわからないが、少なくとも要塞の作りを見る限り、ここは本当に要塞としての機能しか有していなかったようだ。
そこにあるのは外壁と兵舎、倉庫に練兵場、武器庫、そして食堂くらいなもので、ここに詰める兵士達の住環境などは全く考慮されていないように思えた。
高校生であったがプロゲーマーでもあったイリスは、仕事とは楽しんでやらなければ効果が出ないというポリシーの持ち主だった。だから気が乗らない帝国領への遠征も参加しない予定だし、ここに詰める兵士達の住環境も良くしなければならないと思っていた。
ちなみに、これまでカールトンに詰めていた数少ない兵士達は一部の治安維持目的の人員をのぞいて全員このヴレダ要塞に異動になっている。
その数はまだ少なく、ようやく千人に達するかどうかといった所であった。これで要塞を守れるとはイリスももちろん考えていない。
城壁内にあった無駄に広い練兵場を取り壊し――新しい練兵場は城壁の外、王国側に移動させる予定だ――そこに城下町をつくる。材料となる岩は辺りにいくらでもあるし、街の建設や物資の流通に必要な職人達や商人達とはヴレダ要塞攻略戦の際に関係を築いていたので街の建設は予想以上にスムーズに進んでいた。
砦の中庭だった所に出ると釘を打ちつける音や岩を削るのみの音、そこで働く人々の活気ある声がうるさいくらいに響き渡っていた。今まさに新しい街が生まれようとしている所であった。
「こ、これは――」
想像以上の大プロジェクトにカーンが息を呑んだ。
「ちょっとしたもんだろ? 予算ならカールトンで浮かせた金がまだだいぶ余ってるし、ギルドからの出資も受けてるから問題ないはずだ。王都への報告はお前に任せるよ」
「勇者さま……。面倒なことばかり私に押しつけてません?」
「何言ってるんだ。お前を信用してこそのことだろ」
というイリスの言葉にカーンは感動するはずもなく、ため息をつくばかり。
「はぁ。ここまで進んでしまったものを止めろと言うわけにもいきません。しかし、今度からは事前にお話しくださいね」
「まあ……気が向いたらな」
あくまで素っ気ないイリスにカーンはより大きなため息をついて建物の中に戻っていった。
「さて、進捗はどうなっているかな」
辺りを見渡しながらイリスが建設中の街中を歩いて行く。
建築中の建物には大工が柱の上によじ登って釘を打っているし、前方では道に石を敷き詰めている職人もいる。その道を通って物資をできたての店に運び入れていく商人の姿もいる。職人か商人が連れてきたのだろうか、道端ではイリスよりも小さな子供達が元気に駆け回っている。
多くはカールトンからやってきた人々だが、商機を見つけ出した商人達は王国全土からやってきているという。なかなかに商魂たくましい。




