使命……? ああ、魔王を倒すことだったな、そういえば
「勇者さま!」
「……またお前か。冒頭がむさ苦しいオッサンだとPVに影響するんだよ」
「……何をおっしゃっているのかはわかりませんが、ひどく屈辱を受けたのはわかります」
イリスはひらひらと右手を振って、ヴレダ要塞内部に新しく用意されたイリスの執務室にやってきたカーンに話の続きを促した。
「そ、そうでした。勇者さま、大事件です!」
そう言って久しぶりに顔を見せた王都からの文官は手元の書類に目を落とした。
「内乱……?」
イリスがカーンに訝しげな視線を向ける。
「は、はい……。情報によると、現魔王サタナキア六世が死亡し、その後継を巡って皇子達の間で内乱が勃発しているようです」
「ふーん」
素っ気ない返事をしてイリスは自席を立ち上がり、執務室を後にした。
ヴレダ要塞は石造りの建物で、煉瓦造りだったカールトン市庁舎よりもかなり無骨な作りになっている。かたや王国が、かたや帝国が建てた建物であるためにその様式はかなり異なるが、どちらの人々もたいして身体の大きさに違いはないためにヴレダ要塞を占領した王国側も問題なく使用できていた。
「勇者さま!」
外廊下を歩くイリスの後を追いかけるようにカーンがやってくる。歩くのが遅いイリスに覆い被さるように隣を歩くカーンにイリスは心底鬱陶しそうな視線を向けた。
「なんだよ、まだ何か用か?」
「なんだよ、ではありません! 勇者さまは使命をお忘れでなのすか?」
「使命……? ああ、魔王を倒すことだったな、そういえば」
深々とため息をついて歩きながら話に付き合ってやる。
「魔王なら死んだじゃないか。お前の報告によると」
「勇者さま……!」
「冗談だよ。そういきり立つな。お前の次のセリフはこうだろ。どうして攻勢に出ないのですかー!」
イリスは変な口調で言った。もしかすると、カーンの口調を真似したのかもしれないが、お世辞にも似ているとは言えない。実際、カーン本人はそうとは気づかなかったようだ。
「そ、そうです! 今こそ帝国領に攻め込むべきです! 現に、王都に留まっていた他の勇者さま達はそのためにこのヴレダ要塞に向かっているとの知らせが来ています」
イリスは立ち止まり、先ほどよりも大きなため息をついた。
「はぁ……」
「な、なんですか。その大きなため息は……」
「いや、まあ……そうか、普通はそう考えるか」
そう言って、改めてカーンの方に向き直る。




