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第77話 崩壊する日常

ガキどもに好きにさせて待っていると協会の中からエマとシスターが出てくる。


「話は終わったのか?」


「はい、自分のことがちゃんと分かったというか…気持ちの整理ができたというか…とりあえずスッキリはしました。」


そう言うエマの顔は晴れ晴れとしていた。


「ふふ、エマさんのお力になれたようで良かったです。」


シスターはそう言って柔らかく微笑んだ。


「そうか、なら行くぞ。」


俺がそう言うとチビガキどもが口々に文句を言い始める。


「えー!?お兄ちゃんもう行くのー!?」


「泊まってこーよー!!」


「コラ!みんな迷惑おかけしないの!!」


「だってー…」


尚も食い下がろうとするチビガキの1人にアッシュが近寄り、頭を撫でる。


「お兄ちゃんたちは大事な用事があるからまた今度にしよう、ね?」


「……わかった…」


チビガキが渋々引き下がるのを見てシスターはホッとする。


「重ね重ねすみません…」


「…気が向いたらまた来てやる。」


俺がそう言うとシスターもチビガキどもも花が咲いたように満面の笑みを浮かべる。

俺はそれを一瞥すると、黒姫を呼び出して背中に乗る。

エマも俺に続いて黒姫の背中に飛び乗った。


「本当にありがとうございました!!」


「お兄ちゃん、お姉ちゃん!ありがとー!!」


「絶対また来てねー!!」


シスターがお礼を言うのを筆頭に次々と見送りの言葉を投げかけてくる、だがアッシュは1人俯いている。


「飛べ。」


俺がそう言うと黒姫は翼を大きく広げる、その時アッシュの顔が弾かれたように上がり黒姫の近くまで走り寄ってくる。


「リューゴさん!エマさん!僕…いや、俺強くなります!!」


アッシュはそう大きな声で叫んだ。

俺はそれを見てニヤリと笑う、エマも微笑む。

そして大きな風を巻き起こして黒姫は飛び立った。


──────────────────────────


ーアッシュsideー


シスターが時々近くの村まで来る商人の所にチビたちのお菓子を買いに行っていた時、知らない大人たちが教会に押し入ってきた。

僕たちはあっという間に捕まってしまって、黒い首輪を嵌められた、最悪だこの首輪は見たことがある、昔父さんが何度も着けられたら死を覚悟しろって言ってた呪具、【呪縛の首輪】だ…

首輪からは嫌な感じがして魔力が吸われていくというか、魔力が押し込められるというか…とにかく何か気持ち悪い感じだった。


僕たちは全員、魔法か何かで眠らされて気が付けば倉庫のようなものの中に無造作に放り込まれていた。

ぐるっと周りを見回す、教会にいた子供は全員いるみたいだ…僕たちみたいな孤児を攫うってことはやっぱり売るため…?


「アシュにぃ…ここどこ…?」


僕の次に年長で青く肩にかかる長さの髪を持った女の子、プリシラが目を覚ます。


「分からない…僕たちは攫われたんだ。」


「誘拐…?なんで…!?なんで私たちが…?」


プリシラは事態を飲み込むと顔がサッと青ざめてパニックになりかける。


「落ち着いてプリシラ!大丈夫、君たちは僕が絶対守るから!!」


「うっうう…グスッ」


なんとかパニックにはならなかったけどプリシラはすすり泣くいてしまう。

僕はプリシラを抱き締めて頭を撫でる。

そうしてプリシラを慰めていると、倉庫の扉が開く。


「「!!」」


僕は子供たちを庇うように両手を広げて立つ。


「ほう…?この状況をちゃんと理解はしてるようだな…」


黒いロングコートを着たオールバックの男が葉巻を吸いながら言う……この男、人間だ…魔人族と匂いが違う…!!

そして男の後ろには額から非対称に1本だけ角が生えた男が控えている…この男も他の魔人族と似てるけど匂いが違う…


「ふむふむ…」


人間の男は僕らをジロジロと品定めするように見る。


「ガキの割にどいつもこいつも器量良しだな…これなら高く売れそうだ、ダグリルあの成金ゴブリンに連絡しろ。」


「はっ!…しかし手柄をみすみす譲ってよろしいのですか…?」


「ハッ!構やしねぇよ、この国にゃ孤児なんて吐いて捨てるほどいるだろうが。」


僕はその言葉にカッとなって人間の男に殴り掛かる。

でも魔人の男に蹴り飛ばされて壁に叩きつけられる。


「うぐっ!」


「アシュにぃ!!」


「無駄なことすんな、大人しくしてろ。」


「ウハハハ!商品にヒデェことしやがる。坊主、お前は運が良い…お前がタダのガキなら今ので(バラ)してたぜ?」


僕の第六感が大警鐘を鳴らし、身体中から汗が噴き出る。


「はっ…はっ…はっ…」


「…早死したくないなら大人しくしとくんだな、運が良けりゃ優しいゴシュジンサマが見つかるかもしれねぇぜ?ウハハハハハ!!」


そう言い捨てて2人は倉庫から出ていった。

僕はソイツらの出ていった扉に体当たりをして何度も殴りつける…だが所詮子供の力、ビクともしない。

僕はズルズルと扉に縋るように崩れ落ち、悔しさの余り地面に拳を叩き付ける。


「くそ!!くそくそ、くそぉ!!!!……くっ…うっ…僕は…弱い…!!」


悔しさで涙が溢れて止まらない。

許せないのに、何もできない…!!


「アシュにぃ…」


プリシラは僕が落ち着くまでずっも背中をさすってくれていた。

しばらくして僕は落ち着きを取り戻すが、僕とプリシラ以外の子供たちは以前眠ったままだ。


「みんなを起こして大丈夫かな…?」


プリシラは心配そうにそう言う。

きっとこれは起こしたらみんながパニックになるんじゃないかと言うことだろう。


「それでも、抱えて走るなんてできないんだ…起こそう。」


「う、うん…」


そう言って2人で子供たちを1人ずつ起こしていく。

かなりの時間がかかったけど1人ずつ起こし、ちゃんと話をしたから幸い大パニックになることはなかった。

それでもみんなかなりショックを受けて、身を寄せ合って怯えている。


「……ここからどうにかして出ないと…」


僕がそう呟いた瞬間に再び、倉庫の扉が開く。

そこには女の人を抱えた魔人の男が立っていた。

魔人の男は無造作に女の人を放り投げる。


「新しいお仲間だ。」


それだけ言って再び扉は閉められる。

そうして扉が閉められて、数十分ほど経つと女の人は目を覚ました。

女の人はなんとかして手を縛る縄を切ろうとするけどそれは無理だと僕が教えた。

でも、女の人はなんてことないみたいにスルリと縄を外した。

すごい…こういうことに慣れてるのかな…?


女の人はエマさんと名乗った。

僕たちを助け出そうとしてくれた…でもダメだ、この呪具は着けたが最後死ぬまで外せない。

僕が首輪のせいで出られないことを告げるとお姉ちゃんは急いで走り去っていった。


「……見捨てられたのかな…」


僕はついそんなことをポツリと呟く。


「アシュにぃ…」


プリシラも心配そうに僕の手をぎゅっと握ってくる。

僕はぶんぶんと頭を振ってマイナスな思考を追い出す。


「みんな、もう少しで助けがくる!それまで頑張るんだ!!」


僕がそう言うとみんなの顔が少し明るくなる。

あと少しなんだ…あと少し…

そう思ったのもつかの間、お姉ちゃんが開け放って行った扉の前に影が現れる。


「おい…こりゃどういうことだ…!?」


そこには目元に青筋を浮かばせた魔人族の男が立っていた。


神様…なんでこんな試練を僕たちにお与えになるんですか…


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