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第75話 確かな絆

ガキどもが囚われている檻をメキメキとこじ開ける。

ひとりひとりの首に黒い首輪が嵌められているのに気付く。

手近なガキに手を伸ばそうとすると目をギュッと瞑って怯えられた。


「…別に取って食やしねェよ。」


俺が胡座をかいて座りながらそう言うと、目の前のガキは恐る恐る目を開けて頷く。

俺は首輪に触れて魔力を流し込んだ、するといとも簡単に首輪が外れた。


「えっ!?」


首輪が外れた本人も大層驚いている、周りのガキどももみな口を開けてその光景を見ている。


「並べ、さっさと全員の外すぞ。」


俺がそう言うとガキどもは大人しく俺に従って列を作って並ぶ、俺は次々とガキの首輪を外していった。

しばらくして全員の首輪を解除したのを確認すると俺は立ち上がった。


「外に出てェヤツは着いてこい。」


それだけ言って歩き出す。

するとガキどもは全員俺の後ろを大人しく着いてきた。

そして長い階段を登り地上に出ると、エマと治療を終えたアッシュが心配そうな顔で立っていた。


「待たせた、思ったより手間取っちまった。」


「リューゴさん!傷だらけじゃないですか!?」


「心配すんな、ツバつけときゃ治る。」


「そんな民間療法じゃなくちゃんと治療させてください!」


エマに物凄い剣幕で迫られる。


「わ、分かったから落ち着け。」


俺は大人しくその場に座るとエマがテキパキと薬を塗って包帯を巻き始める。


「…ありがとうございます。」


エマが俺の腕に包帯を巻きながら言う。


「あ?」


「私のワガママで子供たちを助けてもらって、その上こんなボロボロになって…私、強くなったと思ってましたけど結局足引っ張っちゃいましたね…」


そう言いながらエマは泣きそうな顔で笑った。


「はい!とりあえず応急処置は終わりです、リューゴさんなら明日明後日には回復しちゃうんでしょうけど。」


エマはそう言って苦笑する。

俺は立ち上がってからエマの頭を乱暴に撫で回した。


「わわわっ!?」


「……エマ、()()()()()()。」


俺はそれだけ言うとガキどもの方に向かって歩いて行った。


ーエマsideー


私は放心していた。


リューゴさん、今なんて…?


『……エマ、()()()()()()。』


胸の奥がじんわり暖かくなる。

そして目頭が熱くなる。

私は咄嗟に手で顔を覆って下を向く。


「(そっか…そっかぁ…私、ちゃんと役に立ててたんですね…)」


たった一言、背中越しに投げかけられただけの言葉。

でも、これまで周りから並べられたどの美辞麗句よりもその無骨で優しい言葉が嬉しかった。


私は少しだけ濡れた目元を拭うとリューゴさんと子供たちの元へ走った。


ーside outー


「ガキども、これからどうしたい?」


俺が簡潔にそれだけ聞く。

するとガキどもはみな目を見合わせて戸惑う。

この様子から察するに、コイツらに親はいねェのか…?


「どうやら孤児院、あるいは教会出の子たちでしょうか…?」


後から来たエマが俺に耳打ちする。

すると神狼(フェンリル)のガキが手を挙げた。


「あの、僕たちはみんな同じ教会で育ったんです…できればみんなをそこに帰してあげたいです…」


「その教会の場所は?」


「中央都のグロスへリアです。」


「グロスへリア?」


「西方ギルドのあった街ですよ。」


「あ?ジスターヴじゃねェのか?」


「それはこの国全体を纏めた総称ですね、国と街は違いますから。」


「ああ、そういうことか。」


確かに…そういや"魔国"ジスターヴだったな。


「じゃぁそこ行くか…つってもこれだけのガキどもをどうやってそこまで連れてくよ。」


パッと見でも10人以上はいる。


「さすがにこの人数は黒ちゃんでもキツいですよね…」


「馬車とか出てねェのか?」


そうやってウンウンと頭を悩ませているとどこかで見たことのある荷馬車が近寄ってくる、そして俺たちの前で止まると窓が開いて中からラムダがひょっこり顔を出した。


「おやおや!これは鬼神殿に雷神殿じゃありませんか!」


「ラムダさん!?」


「おめェ、どうしてこんなとこに…?」


「いやはや我が商会の商品は多岐に渡ります故、入手が限定される素材なども必要になるのですよ。」


人当たりの良い笑みを浮かべながらはははと笑うラムダ。


「そんなことよりもその子供たちは?」


「ああ、ついさっき助けた。」


「リューゴさん言葉足らな過ぎですよ。先程、闇オークションにかけられそうなところを救出したんです。」


「なるほど!さすが噂に違わぬ高潔さ!見ず知らずの子供たちを助けてしまうとは!!」


「でもこの子たちの住んでいた教会に送りたくても手段が無くて…」


「そういうことでしたか!それならば、私めが何とか致しましょう!!」


ラムダはそう言うと馬車の中に引っ込むと何やらガサゴソした後に1つのスクロールを手渡してきた。


「これは所謂、転移のスクロールです、使用者の思い描いた場所に集団で転移できるという優れものですぞ!」


「えぇ!?集団転移のスクロールってめちゃくちゃ高価なやつじゃないですか!!!!」


「フフフ、これは私からの先行投資と言うことで♡」


「ハッハハ!強かな野郎だな、気に入ったぜ。」


「フフフ、これからもラムダ商会をどうぞご贔屓に、それでは!私はこれで。」


そう言ってラムダは顔を引っ込め馬車が走り出した。

俺たちはラムダ一行を見送るとスクロールを広げる。


「とりあえず、アッシュおめェが使え。」


「ぼ、僕ですか?」


「最年長で受け答えもしっかりしてますし、適任ですね。」


「わ、分かりました…」


アッシュは緊張気味にスクロールを受け取る。

周りのガキどもをみな集めてスクロールを発動する。

すると目の前が真っ白になり気付いた時には目の前に教会があった。


「か、帰ってこれたんだ…」


「やったーー!!帰ってきたんだー!!」


「シスターーー!!」


ガキどもが次々に教会に向かって駆け出す。

すると騒ぎを聞き付けて中から修道服を着た魔人の女が出てきた。


「!?みんな!!?どこ行ってたの!!心配したんだから!!!!」


シスターはガキどもを見ると涙を止めることもせず抱き留める。


「良かった!無事でほんとに良かった!!」


「ジズダぁ〜〜怖かった〜〜!!」


「うわぁ〜〜ん!!」


「ごめんざい〜〜!!」


ガキどもも謝りながら大泣きを始める。

俺はその光景を見ていてお袋と親父を思い出した。


────────────────────────────


『いいか、龍吾…お前は強い、でもその力の使い方を間違えちゃいけねェ…』


『ちからのつかいかた?』


『ハッハハハ!今は分からなくていい!でも父ちゃんの言ったことをちゃんと覚えとくんだぞ?』


『わかったよおやじ!!』


『馬鹿野郎!父ちゃんって言え!!』


『いってー!!殴ることないだろ!!くそおやじー!!』


『まだ言うかコノヤロー!!』


『ほらほら、遊んでないでご飯にしましょ!』


『かあちゃん今日のメシなにー?』


『今日は龍吾の好きな500gステーキをなんと5枚よ!!』


『ほんとかー!?やったーー!!!!』


『お、おいおい…どこにそんな金』


『あら、アナタのクローゼットの中から()()()()お金が出てきたのよ?』


『な、何!?母ちゃんそりゃないぜ~…』


『ウフフ、冗談よ!たまたま安売りしてただけよ!!』


『おいおい、ビックリさせんなよったく…』


────────────────────────────


ーエマsideー


子供たちがシスターさんと涙の再会を果たし、喜んでいる光景を私たちは少し離れた場所から見ていた。


「………」


「リューゴさ…ん……」


隣に立つリューゴさんを見ると、()()()()()()()()()()()()()()()()

余りの衝撃に私は言葉に詰まった。

珍しいものを見たのと余りのギャップに、でも何より…


リューゴさんがとても優しい目をしていたから。


私はリューゴさん涙から目を逸らして空を見る。

今日の空はなんだかいやに澄んでいるような気がした。

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