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第7話 小さな出会い

冒険者ギルドに入ると1階はカウンターを中心にかなり広いスペースが取ってあり、どうやらここで食事もできるようだ。

奥にある厨房スペースからいい匂いが漂ってくる。

俺の腹はもう限界だった。

料理を運ぶために忙しなく走り回っている低身長でゆるふわウェーブのかかった栗色の髪をしたウェイトレスに声をかける。


「おい!メシ持ってこい!!できたやつから片っ端だ!!!!」


「へ!?わ、分かりました!!」


そこから始まるのは途切れることのない料理運搬リレー。

途中から3、4人のウェイトレスで空になった皿を回収するのとメシを運ぶのを分担していた。

そして俺が食い終える頃には周りの視線は全て俺に注がれ、ウェイトレス達は肩で息をしていた。


「ゲフッ、うまかったぜェ…」


腹が満たされこれからどうするか考えていると、俺が声をかけたウェイトレスがおずおずといった感じで声をかけてきた。


「あ、あの…お代の方なんですけど…」


「ハッハハハ!悪ぃな金はねぇ!!」


「………へ?」


ウェイトレス達は呆然としている。

さすがの俺も今回は少し悪かったと思っている。

だが背に腹はかえられん。


「あぁ〜〜そうだなァ…なんか困ってんなら助けてやるよ。」


それが俺の考えに考えた末の答えだった。


「えっ!?え、えと…それは…なんでもですか…?」


「さすがに迷惑かけちまったからなァ…程度にはよるが、大体のことは聞いてやる。」


俺がそう言うとウェイトレスはギルドのカウンターに向かい、受付嬢と何やら話し込んでいる。

話が終わると1枚の依頼書を持って走り寄ってくる。


「あ、あの…最近王都の近辺の森に強大なモンスターが住み着いたようでして、私の家は王都の郊外にあるので…怖くて…グス…」


今までかなり我慢してきたのかウェイトレスは話しながら、段々と涙声になってきていた。


「………よこせ。」


俺はウェイトレスの手から依頼書をひったくる。

依頼内容は王都の郊外ミュルズ針樹林の調査および危険生物の排除、と書かれていた。


「ミュルズ針樹林…?大森林とは違ぇのか?」


ウェイトレスに聞くと、目元をゴシゴシと腕で拭って説明を始めた。


「え、えとですね!針樹林はその名の通り針樹と呼ばれる木の葉が全て硬質の刃のようになっている樹が大量に群生しているんです。ミュルズ大森林はその手の特殊な植物が大量に群生し、尚且つお互いの生態系を破壊することなく共存しているかなり特殊な森なんです。」


「なるほどなァ…大森林は言わば総称ってことか?」


「そうです!………あの、依頼しておいてなんですが、針樹林はかなり危険です…ミュルズ大森林にいるモンスターはだいたいが高レベルですし、地形は迷路のように複雑です…勢いでお願いしてしまいましたが無かったことにしてもらっても…」


「ウダウダうるせぇよ、俺がやるって言ったらやる。誰にも文句は言わせねェ。」


キッパリ言い切る俺にウェイトレスは驚きに目を見開いている。

だがすぐに目尻に涙を浮かべ嬉しそうに笑う。


「ありがとうございます、お願いします…」


そう言って深々と頭を下げるウェイトレスを見ると俺は席から立ち上がる。


「フン、ちょっと待ってろ。すぐ戻る。」


俺がギルドの出口に向かおうとすると何人かの冒険者が出口の前に立ちはだかった。


「おいおいおい、お前冒険者ですらないのに何勝手しようとしてんだ??」


真ん中にいるやたらキザったらしい茶髪の男が話しかけてくる。


「……」


「さっきから見てたら俺のミーナに馴れ馴れしくしやがって…お前の持ってる依頼書を寄越しな、俺が代わりに片付けてやるよ。」


そう言ってキザ男は俺の手にある依頼書を取ろうとした瞬間、俺はキザ男の顔面を殴り飛ばした。


「ぷげっ」


奇妙な悲鳴を残して一瞬で姿を消したキザ男に周りの取り巻きも面食らう。


「俺ァなァ…弱ぇヤツに指図されるのが嫌いなんだよ。」


そう言った瞬間暴力的なまでの魔力の圧がギルド全体にかかる。

建物全体がギシギシと軋む。


「ひっ…!ヒィ!!わ、悪かった!!俺達はヌイの野郎に唆されただけなんだ!!」


少し魔力を放って圧をかけただけで簡単にへりくだる連中。

くだらねぇ、殴る価値もねぇ。


「どけ。」


俺が一言そう言うと取り巻きどもはそそくさと道を開けた。

ギルドの外に出ると向かいの建物の壁にキザ男がめり込んでいた。

その顔は拳の形に凹んでいる。


「フン…芸術には詳しくねぇが、名物にはなんだろ。」


キザ男を一瞥すると門へ向かって歩き出す。

俺があのチビの依頼をすんなり受けたのは詫びの他にも理由があった。

全くの初対面の男に涙ながらに頼むくらい…それ程までに精神的に追い詰められているアイツを見ていたら前世の俺を思い出した。

ずっと我慢して、誰にも相談できず、結局そのまま俺は死んじまった。

今更だがもっと好きに生きれば良かったと少し後悔する。

総括するとあのチビを他人事とは思えなかった、いても立ってもいられなかった。


「チッ…人助けはガラじゃねェんだがな…」


そう言って頭をガシガシと掻く。

そして門をくぐろうとすると声をかけられた。


「おや、リューゴ殿ではございませんか!もう街を発たれるのですか?」


それは俺が街に入る時に身分証を発行してくれた指揮官門兵だった。


「いや、頼み事されたから少し出るだけだ。」


「なんと…すでに人様の手助けとは…お見逸れしました!お気をつけて!!」


そう言ってビシッと綺麗な敬礼をする指揮官。

こういうヤツは少し苦手だ……嫌いではないが。


「ああ。」


それだけ言って針樹林へと向かう。

俺の頭の中にはチビウェイトレスの泣き顔と声がやけに響いてイライラさせる。

チビに対してイライラしてるわけじゃねぇ…だが何故かイライラする。


「チビの悩みの種を片したら多少はスッキリすんだろ…」


俺はそう思うことにした。

そんなことを考えながら歩いていたら早々に針樹林に着いた。


「強大なモンスター…ね…フン、期待しねぇで会いに行ってやるよ。」


そういう俺の口角は牙を覗かせる程に上がっていた。

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