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第66話 魔国ジスターヴ

朝になりギルドでエマと合流する。


「おはようございます、リューゴさん。あ、ヤマトの服にしたんですね。」


「おう、ようやくって感じだ。」


俺の服装は和服ではあるが動きやすいように下は袴のようなズボンになっている。

下駄がガランゴロンと重たい音を鳴らす。


「……リューゴさんその下駄…」


「あん?あぁこれか、多分鉄下駄だろ。」


「多分…?」


「鉄より重てェ感じするんだよなァ…なかなか俺好みの重さだぜ。」


「ま、リューゴさんが気に入ってるんなら良いですけど。」


「うし、そんじゃ行くぞ。」


「はい!」


俺たちはギルドの闘技場に移動すると黒姫を呼び出し、早々に王都を発った。


目指すは西の大陸『魔国ジスターヴ』、どんなヤツらと戦えるのか俺は今からワクワクしていた。


ひたすら西へ飛ぶ、海を越えた先に次第に陸が見えてくる。


「…なんだありゃァ…?」


俺の視線は空へ向いていた。

ジスターヴが近くなるにつれ空が真っ赤な雲で覆われていく。


「これは…」


エマはその不気味な空を見て息を飲む。


「…あの空を見たからってワケじゃねェが嫌な予感がするなァ…」


俺はそう零すと黒姫を駆る速度を上げた。

しばらくして西の大陸の海岸沿いに着地する。

見回してみるとこの海岸からずっと森が広がっている。


「黒姫、おめェもずっと巻物ン中だと退屈だろしばらく羽根伸ばして来いよ。」


俺がそう言うと黒姫はご機嫌そうに鳴くと森の方へ飛んで行った。


「探索がてら歩くぜ。」


「はい、問題ないです。」


俺たちも森の中に足を踏み入れる。

空は赤い雲が覆い、陽の光が差さない森は異様な雰囲気を放っている。


「ミュルズ大森林とえれェ違いだな…」


「しかもこの森、というかこの大陸全体…ですかね?空気中の魔力の濃度がかなり濃い感じがします。」


「ああ…ここで育ったヤツらが強くなるわけだ…」


文字通り住む世界が違う、生まれた瞬間からこれだけの魔力に曝されて生きてけばそりゃァ魔力に対する感覚が研ぎ澄まされるわけだわなァ…


「ま、それでも俺より強ェヤツがいんのか疑問だがな。」


「ふふ、リューゴさんらしいです。」


そんな話をしたがら森の中を進む。

俺は人の住まう場所を探るために魔力感知範囲を広げる。


「!!」


「…どうかしたんですか?」


「大陸全体から発される魔力が濃いせいか魔力感知の精度が強制的に落とされる。」


「それは…戦闘になったらかなり面倒ですね…」


「フン、俺からすりゃァちょうどいいハンデだ。」


森を探索しながらこの大陸についての情報を少しずつではあるが収集していく。


しばらくすると黒姫が何か抱えて戻ってきた。

黒姫は俺たちの前に持ってきたものを落とす。


「これは、ワイルドボア…?でも大きさが全然違うし…」


「なんだおめェ、俺たちのために獲ってきたのか?」


「クルルル…」


「ハッハハハ!粋なことするじゃねェか!」


俺はそう言って黒姫の頭を乱暴に撫でた。


「とりあえず食おうぜ、環境で見た目が変わるなんて生き物じゃよくある話だ。」


「そうですね、解体しますから少し待っててください!」


俺たちは森から木を集め海岸の砂浜で火を起こす。

そして木の枝に刺した猪肉を焼き始めた。

俺の腹からどデカい音が鳴る。


「ふふ、もう少し待ってくださいね。」


「何も食わずに出てきたからなァ…」


「ギャウギャウ♪」


「はい、焼けましたよどうぞ!」


俺は豪快に肉にかぶりつく、黒姫も焼いてもらった肉を嬉しそうに頬張っている。


「ッ!!…うめェ…!!」


「ホントですね!すっごくおいしい!!私の知ってるワイルドボアは固くて臭くて食べられたものじゃないのに!!」


しばらくして俺たちは今後の方針を決めるために対面で座っていた。

ちなみに黒姫は好きに遊んでこいと言ったが俺の側を離れようとしないのでそのまま好きにさせている。


「それで、これからどうするんですか?」


「黒姫が戻って来ちまったからなァ…空から人の住んでそうなとこ探すか。」


「分かりました、お願いしますね黒姫。」


「クルルル♪」


そうして俺たちは再び黒姫の背に乗ると空へ舞い上がる。

俺は遠くにあるここからでもかなりデカく見える山に興味を惹かれていた。


「…リューゴさん、さすがにあそこに人は…」


「…言うな、分かってるっての。」


そんなやり取りをしながら人里を探す。

西の大陸が広いのもあってかなり時間をかけてしまっていたがようやくそれらしきものが見えてくる。


「あ!リューゴさんあそこ!」


「やっとか…かなりデカいな、王都にも負けてねぇんじゃねェか?」


「ですね…」


中央に聳える巨大な城のような建物とそれを囲うように大小様々な建物がある。


「黒姫、近くで降りろ。」


「グルア!」


黒姫から降りて街に近付くと街の大門の前で豪華な荷馬車が止まっており、門兵が怒声を上げていた。


「弱りましたねぇ…依頼主(クライアント)の要望で荷の中身は見せられないのですよ、分かってください。」


「ダメだ!そもそも人間は信用ならん!!」


「それは些か差別的過ぎると思うのですが…?」


「ええい!うるさい怪しい奴め!!いいから帰れ!!」


「これは本当に困りましたね…」


「可哀想ですね、商人さんみたいですけど…」


エマがそう呟く。

俺はその商人の男の元へ歩み寄る。


「よう、ラムダ。」


「これはこれは!リューゴさんじゃありませんか!!こんな所でお会いできるとは、これは切っても切れない縁でしょうかねぇ。」


ラムダはハットを胸に当てて微笑む、そして俺の後ろのエマに気付いた。


「おや?そちらのお嬢さんは…」


「は、初めまして!エマ・ダートンと言います!!」


エマは何故かガチガチに緊張して背筋を伸ばして大声で自己紹介する。


「あ?何ガチガチになってんだ。」


俺がそう言うとエマは俺の腕を引いてラムダから少し距離をとる。


「『商王ラムダ』ですよ!?"人あるところにラムダあり"なんて言われるほどの大商人じゃないですか…!?逆になんでリューゴさんはあんな大物と知り合いなんですか!?」


「あぁ〜…ま、色々あってな。」


「色々って…まぁいいです。リューゴさんの交友関係はもはや国の要人レベルで凄いことになりつつありますからね。」


それは言い過ぎだろ…と思いながらも俺たちはラムダの元へ戻る。


「それで?国にも入らず何やってんだおめェは。」


「いやはや、依頼主から荷を誰にも見せることなく指定の場所まで送り届けて欲しいとの御依頼だったのですが…」


そう言ってラムダはチラッと門兵を見る、俺もそれに倣って門兵を見て気付く、人間じゃねェ…爬虫類のような顔、鎧の下からは鱗を纏った肌が見えている、そして尻尾もある。


俺の前世で俗に言う、『リザードマン』だ。


門兵は俺たちの視線に気付き鼻を鳴らす。


「フン!商人というのは人間の生き血を啜るようなことをする輩だ!それだけでも度し難いと言うのに積荷を見せられんとは怪しさが極まっている!!」


なんだコイツ…


「なんだコイツ…」


「リューゴさん、心の声が思いっきり出てますよ。」


「相変わらず面白い方ですねぇ…」


俺たちがワチャワチャしていると魔人族(多分)の兵士の肩がプルプル震え出した。


「いい加減にしろ貴様ら!!俺が良しとしない以上この国には入れん!!さっさと帰れ!!!!」


ついに怒声を吐きながら槍を構える始末。


「ラムダはここに用があんだろ?」


「その通りです。」


「俺とエマもここに用があんだよ。」


「それはハービットさん達も関連している内容ですかな?」


「…さすが情報通だな。」


「ふふ、お褒めに預かり光栄です。」


「俺を無視するなぁ!!!!」


そう言って俺に突きを放ってくるが、俺はデコピンで槍の穂先を粉砕した。


「……は!?」


「ケンカ売るなら相手は選べ、早死するぜ?」


俺は獰猛な笑顔で笑いかける。

するとさっきまでの尊大な態度が嘘のように大人しくなり、あれよあれよと入国手続きが終わった。

門を通り過ぎようとして俺は立ち止まって振り返ることなくリザードマンに声をかける。


「おい。」


「は!なんでしょう!」


「まだまだ弱ェが…悪くない突きだったぜ。」


俺はフッと笑うとそのまま歩いて中に入った。


ハッキリ言ってあのリザードマンは雑兵レベルの槍さばきでは無かったのは確かだ。


こんな末端の兵士があれならこの国のトップに立つ強者はどれ程のモンか俺は考えただけでワクワクが止まらなかった。

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