第64話 鬼神VS雷神
日は沈み夜の闇も深まる頃、俺はライオットの墓の前に胡座をかいていた。
深夜ではあるが雲ひとつない快晴で月明かりが眩しいくらいだ。
「…おめェも死徒と戦ったんだな、Sランクのおめェが負けたんだアズラエルとか言うやつもまぁまぁ強ェんだろうな。」
俺は瓢箪を傾け酒を飲みながら墓に語りかける。
「…ガラじゃぁねェが、敵は取ってやるよ。」
「リューゴさん、こんなとこにいたんですね。」
「エマか…ハービットから聞いたのか?」
「いえ、クロエさんからです。」
「そうか…」
エマは俺の横を通り過ぎてライオットの墓に花を供える。
「ライオットさん、初めましてエマって言います。いつもリューゴさんがお世話になってます。」
「フン、むしろ俺の方が世話してやってんだよ。」
「ふふ、そういうことにしといてあげます。」
「……」
「……」
少しの沈黙、ザワザワと風が木々を撫でる音が聞こえてくる。
エマが振り返る、その表情は何かを決意した顔だ。
「あの!」
「あ?」
「リューゴさん、折り入ってお願いがあります。」
「……言ってみろ。」
「私と…一度本気で戦って貰えませんか?」
「…本気か?」
「はい。」
エマの目を見据える、覚悟を決めた強い目だ。
「…明日の昼、ギルドの闘技場に来い。」
「はいッ…!!」
エマは嬉しそうに返事をする。
さて、ヤマトでの戦いを経てどれだけ強くなったか見せてもらおうじゃねェか。
翌日の昼、ギルドの闘技場に入るとエマは既にストレッチを行っていた。
客席にはハービット、クロエ、エレノアの3人がいる。
俺が視線を向けるとハービットは悪戯っぽく笑ってピースをする。
クロエは軽く頭を下げ、エレノアは手を振ってくる。
「ったく…どっから嗅ぎつけて来たんだアイツら…」
「リューゴさん!おはようございます!今日は胸を借りるつもりでいきます!!」
「ガッカリさせんなよ…?」
俺はニヤリと笑う。
ハービットが司会席に立ち、マイクを手に取る。
『はいはーい!今回はボクにジャッジを任せてもらうよー!勝敗条件はどっちかの戦闘不能および降参だよ!2人とも準備はいいかなー?』
「いつでも!」
「構わねェ。」
『では!始め!!!!』
「【天雷神】!!!!」
目に紋章が浮かび、髪が伸び白くなる。
「ほう…!」
俺はついその姿に見惚れる。
いつの世も誰かが成長する姿ってのは心躍る…!!
「見せてみろ!おめェの新しい力を!!」
「参ります!!」
瞬間、地が爆ぜエマの姿が消える。
想像以上に速ェ…!!
「だが…!」
俺の背後から側頭部に蹴りが迫る、俺は腕でそれを難なく防御する。
「!!」
「今の俺には足りねェな。」
「流石ですね…!ならば!!【雷神尖兵】!!」
エマの身体から抜け出るようにもう1人のエマが現れる。
「魔力による分身…いや、そのレベルだともう"増えた"って表現した方がいいなァ…!!」
数は一体だが分身から発する魔力はエマと同等…こいつァたまげたぜ。
エマの分身が突っ込んでくる、俺はそれにカウンターで拳を合わせる。
だが、次の瞬間俺の拳は分身体散らしをすり抜け、俺の身体に電流が走る。
そして俺が拳を引くと分身は元通りになる。
「なるほどな、物理攻撃だと逆に電撃を浴びる防衛装置付きか…」
「リューゴさんには効かないっぽいですけど…ねッ!!!!」
分身を囮に接近していたエマが俺の脇腹に蹴りを放つ。
ボッと空を切る音と共に強烈な蹴りが腹に突き刺さった。
俺は数メートルほど後退する。
「えぇ…クリーンヒットだと思うんですけど…?」
「ああ…ちゃんと効いたぜ。」
蹴られた箇所が焼け焦げ、痛みを感じる。
俺は口角が上がるのを抑えられない。
よくぞここまでという気持ちとまだまだこんなもんじゃねェという気持ちが綯い交ぜになる。
「【雷轟】!!!!」
俺の口から極大の光線が放たれる。
エマと分身は直撃を回避はするものの、余波でたたらを踏む。
「くっ!流石ですね…!!【雷牙】!!」
「【拳岩】!!」
金属同士がぶつかる音と共に衝撃が辺りに広がる。
そのまま拳での鍔迫り合いになる。
エマはそのまま俺を力で押し切ろうとするが、俺は少し落胆する。
「俺と力比べしようってか?やめとけ、時間の無駄だ。」
「あああアアアアア!!!!」
だが、ここでエマに変化が現れる。
「(コイツ…黒纏に成りつつある…!!)」
エマの拳が徐々にだが黒く染まっている。
俺は落胆していた気持ちなど吹き飛び更なる喜びが湧き上がる。
「ハッハハハハ!!どこまでも期待させるじゃねェか!!!」
だが年季も実力も桁違いなのは変わらない、俺は拳を振り抜きエマを吹き飛ばす。
エマはそのまま闘技場の壁に叩きつけられる。
「カハッ!」
「さぁ来い!そんなもんじゃねェだろう!?」
俺の意識がエマ本体に向いた隙を突き、俺の腰辺りに分身がしがみつく。
「ふふ…油断大敵、ですよ!!【神罰】!!!!」
目も眩むほどの閃光と耳を劈くほどの轟音、闘技場に裁きの雷が降り注いだ。
「はぁ…はぁ…魔力ゴッソリ持ってかれちゃった…」
エマは滝のように汗を流しながら膝を着く。
ゼウスの効果が切れ、目の紋章も消え去り髪も元に戻っている。
…見事なもんだ、だがまだだ。
「ッ!!…ふぅ、流石ですね。」
「フン、俺の慢心故にこのザマだ。」
俺の服はボロボロになっていた、咄嗟に魔力を放出して威力を殺してもこのザマか…とんでもねェな。
「本来、大型のモンスターに対抗するための魔法なんですけどね…」
「気張れ、次で最後だ…おめェの意地を見せてみろ。」
俺は拳にありったけの魔力を込める。
黒纏を纏い、それでもなお魔力を集中させる。
黒い拳は金色のオーラを纏い始める。
だが俺はそれに気づかない。
今はただひたすらに目の前の強敵とのケンカを楽しむ。
「ありがとう…ございます…!!…スゥー…ハァー…」
エマは深呼吸をすると最後の魔力を振り絞り拳に魔力を込める、すると黒纏を纏い始める、それと共に白い雷がバチバチと迸る。
「成ったか…!」
俺はそれを見て獰猛な笑顔で喜ぶ。
「はぁぁぁぁああ…!!!」
俺とエマの魔力で大気が震える。
そしてどちらともなく同時に地を蹴る。
「【拳岩・覇殴】!!!!」
「【雷牙・神撃】!!!!」
お互いの全力がぶつかった瞬間、闘技場が吹き飛んだ。




