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第63話 死徒との因縁

モヤモヤとしたままギルドに戻り、ゲイルをすぐに医務室に運んだ。

応急処置が間に合ったのもあり命に別状はなかった。

だがやはり治療を請け負ったクロエとエレノアからは冒険者を続けるのは難しいと判断された。


「…リューゴさんと2人で話があります。」


ゲイルがそう言うとみな部屋から出ていく。

俺と2人になるとゲイルは意を決した表情になる。


「アビーを…アビゲイルをリューゴさんのパーティに入れてやってくれませんか?」


「……理由は?」


「彼女は冒険者の仕事も冒険者でいる自分も好きだと言っていました…俺は見ての通りです…だから…!!」


「断る。」


「なっ!?」


「おめェは他人から無理だと言われたら諦めんのか?」


「ッ!!」


「確かに()()()()()じゃ前ほど戦えやしねェだろうな…でもそれがどうした?片腕で前と同じくらい…いや、前よりも強くなってみせるくらいの気概を見せやがれ…!!」


「前よりも…強く…」


ゲイルは自分の手を見つめる。


「『隻腕の戦士』…ロマンじゃねェか。」


俺はニヤリと笑う。


「ハハハ、敵わないですね。……すみません、みっともない所を見せてしまって、もう大丈夫です。」


ゲイルが顔を上げるとその表情は先程の思い詰めたものではなく、暗雲が晴れたような晴々とした清々しい顔になっていた。

俺はゲイルにマジックバックからとあるモンスターの魔石を投げる。


「これは…ッ!?ジェネラルマンティスの魔石!?こんな貴重なもの貰えませんよ!?」


「勘違いすんなタダじゃねェ。」


「俺は何をすれば…?」


「強くなったら、俺と戦え。」


俺はゲイルを見据えて獰猛に笑った。

ゲイルの喉がゴクリと鳴る、だがゲイルも負けじと不敵に笑った。


「ハハッこれは何がなんでも強くならないと、ですね。」


「期待してるぜ、ゲイル。」


「ッ!!…ありがとうございますッ…!!」


背中越しにゲイルの震える声が聞こえたが、アイツの涙を見ないフリをして部屋を出ていった。


「ふ〜ん…君もなかなか面倒見が良いねぇ。」


ドアの横にいたハービットがニヤニヤしながら言う。


「うるせェよ、ただでさえ低い身長さらに縮められてェか?」


「ヒェッ!なんてこと言うんだい!?それに僕は小柄であってチビじゃないよ!!」


「同じだろうが。」


「リューゴくんは分かってないなぁ〜!だいたい君はいつもボクの扱いが──」


そんなハービットとの他愛ないやり取りを流しながら、俺はザックのことを考えていた。

あの一瞬で俺の魔力感知範囲から抜けたってことはどこかに転移したか魔力を隠蔽する何かを使ったに違いねェ…

だがどっちにしても街に入れねェアイツが仕入れるなら誰かの手引きが必要になるはず。


「(また面倒なことになりそうだ…)」


「リューゴくん聞いてる!?」


「あー聞いてる聞いてる。」


「ホントかなぁ!?…まったく、それで?何をそんなに悩んでたのさ。」


コイツ…ホントに他人の変化に目敏いな…


「いや、ザックのことを考えてた。」


「君から逃げ(おお)せたわけだからね、そりゃ気になりもするか。でもハッキリ言ってザックくんにそれだけの力は無いって断言するよ。」


「分かってる、だからこそ余計に気になってんだよ。」


「随分きな臭いよねぇ…」


「ヤマトにも魔人とやらがいたからなァ…」


「ヤマトにも魔人ねぇ………え゛っ!?その話聞いてないんだけど!?!?」


「あァ〜〜……やっぱ今のナシで。」


「いや面倒くさがらずに話してよ!!」


「魔人が国盗りしようとしてたから叩き潰したってだけだ。」


「めちゃくちゃ偉業じゃないか!!!!」


「そうだ、その時にリーがいたんだが…」


「リー・フェイロン?シンから追い出されたとは聞いてたけどヤマトにいたんだ…それで?」


「よく分からん死徒とやらと契約して「待って。」…あ?」


「今…なんて言ったの…?」


「リーが死徒になった。」


「スゥー…ハァー…リューゴくん、執務室に行こうか。」


ハービットの雰囲気が一転剣呑になる。

俺たちは足早に執務室に移った、机に肘を着いて手を組んでいるハービット、その手は震えている。


「…死徒と因縁があんのか?だとしたら…」


「多分リューゴくんの想像通り…ボクらのパーティを壊滅させ、ライオットを死に追いやったのは…第3死徒アズラエル…ボクらとの戦いでかなり重傷を負ったはずだけどどこに逃げたかは分からないんだ…」


「そうか…」


「まさか死徒が出てくるなんてね…リューゴくんと戦った死徒は何か言ってた?」


「"あのお方のために"とか言ってたぜ。」


「少なくとも死徒より上位の存在が絡んでるってことか…」


「そこに西大陸の魔族も絡んできてんのかよ、めんどくせェ…」


「一体この世界で今何が起きてるんだろう…?」


「さぁな、けど死徒ってのは強ェんだろ?」


「半端なくね……ね、リューゴくん。」


「あ?」


「お願いだから、死ぬようなことはしないでね…」


「……」


俺は縋るような泣きそうな顔でそう言うハービットに近付いて頭を力強く撫でる。


「わっ!わぁっ!」


「誰の心配してんだおめェは、俺が負けるわけねェだろうが。」


そう言ってニヤリと笑って見せる、ハービットは俺の顔を見上げてふにゃっと笑った。


「ふふ、そうだね…君なら大丈夫だよね!」


「とりあえず数日休んだら西の大陸に行ってくる。」


「うん、くれぐれも気をつけてね。戦闘より調査に重きを置いて行動して欲しいな!」


「一応頭に入れとく…」


「そんな嫌そうな顔しないでよ!ホントに頼んだからね!!生存第一!見敵逃走!」


「はいはい、わァったよ。」


「それと…死徒のことはクロエとエレノアには…」


「分かってる、言わねェよ。」


俺が間断なくそう言うとハービットは安堵したように笑った。


「うん、ありがと。」


「じゃぁ行くぜ、腹減っちまった。」


「うん、助かったよ。」


俺は手をヒラヒラ振りながら執務室を後にした。

部屋を出てロビーに続く長い廊下を歩きながら思い出す。


「第3死徒アズラエル…覚えたぜ…いつか絶対ェぶん殴る…!」


俺は無意識に拳を握り締めていた。

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