第62話 不吉な予感
俺たちが駆け付けると元『爪牙』の面々が揃っていた。
だがザックは血に濡れた双剣を構え、ゲイルは左腕が無くなっていた。
ゲイルはポーションを傷口にかけて止血すると残った腕で大剣を構える。
「ぐっ…!ザック、もうやめるんだ…!!」
「はぁ〜萎えるよなぁ…そういうの…さっきのアビーみたいにもっと悲鳴上げてくんないとよ。」
「ゲイルごめんなさい私…!!」
「ヒャハハ!良かったよお前らがマヌケで!ちょっと申し訳ない顔すればコロッと騙されちまうんだもんなぁ!!」
「このクズ…私たちがどんな思いで…!!」
「あ〜〜うるせーうるせーお前らは俺の経験値以外の何者でもないんだよ、鬼神のヤローと決闘した時からレベルが20は上がった!!もう俺に敵う奴なんていねぇ…!!」
「あんた…!どれだけのルーキーを手にかけたの…!?」
「あ〜?お前は今まで狩ったモンスターの数を覚えてんのか?」
「コイツ…!!【蒼炎弾】!!!!」
アビーの杖から青い炎の球が放たれる。
「今更そんなもんが効くかよ!【電光石火】!!」
だがザックは容易くアビーの魔法を切り裂き、そのまま首を刎ねようとする。
「フン!」
「ゲハァッ!」
俺が横からザックの腹に蹴りをかましザックは吹き飛び岩壁に叩き付けられた。
「あ…リューゴさん…?」
地面にへたり込んだアビーが俺に気付き、泣きそうになる。
「泣くのは後だ、ゲイルの治療してやれ…よく耐えた。」
俺はアビーの頭を軽く撫でた。
「ッ…はい!!」
「リューゴさん…あとは…頼みます…!」
ゲイルはそう言うと気絶した。
「エマ、おめェはソイツらの側を離れんな。」
「分かりました…決着をつけてきてください…!」
「ああ。」
俺はそれだけ言うとザックが吹き飛んだ方に歩いていく。
「あ〜痛てぇ…ようやく現れやがったな…リューゴぉ…!!」
首を鳴らし無傷で土煙の中から現れるザック。
殺意剥き出しの血走った目で俺を睨みつけてくる。
「堕ちるとこまで堕ちたなクソガキ。」
「あぁ?ヒャハハハ!逆だよ逆!!俺は誰もたどり着けなかった高みまで登ったんだよ!!!!」
「力と引き換えに人間性を失ってちゃ世話ねェな。」
「はっ!なんとでも言いやがれ、強さこそが全てで勝ったやつが正しいんだよ!!!!」
ザックが木を足場にして俺の周りを飛び回る。
「(前に比べたらかなり速ェな…それでも足りねェが。)」
俺は背後で双剣を振りかざしているザックの胸倉を掴んで地面に叩きつけた。
「ぐべぁ!?」
「バカが…おめェの速さじゃ撹乱にすらならねェよ。」
「クソがァ!!まぐれが続くと思うなよ!?」
今のをまぐれで済ませちまうあたり程度が知れるってもんだなァ…
俺は龍の眼でザックのステータスを見た。
「(野郎…称号に『裏切り者』と『殺人鬼』が追加されてやがる……哀れなもんだなァ…)」
「【双雷剣】!!!!」
雷を纏った双剣が振り下ろされる、俺はそれを腕でガードした。
「!!」
ザックはすぐに距離をとる。
俺は腕を見てみると少しの火傷を負っていた。
「ほう…ようやく攻撃らしい攻撃になったじゃねェか…」
「テメェ…ほんとにバケモンかよ…!!」
ザックは苦虫を噛み潰したような顔をする。
ザックは未だに武器や身体に魔力を纏えてねェ、それじゃナマクラも同然だ。
だがレベルが上がったからだろう、以前とは違い俺に傷を負わせるだけの威力はあった。
まぁ…俺がそれを教えることはない、コイツとの因縁はここで終いだからな…
「おめェは格下としかヤラねェから弱ェんだよ。」
「ッ!!うるせぇよ!!!!【雷電縛鎖】!!!!」
俺の体に電気を帯びた鎖が巻き付く。
ザックは双剣を重ね合わせる、するとそれは1本の剣になった。
「ロマンのある武器だな。」
「その減らず口すぐに叩けなくしてやる…!!【充電】!!」
剣が光を放ち出し、空気中の魔力を吸収し始める。
いや…空気中のだけじゃねェな…大地からも魔力を吸い上げてやがる…
ザックを中心に魔力が竜巻のように吹き荒れる。
「……おめェ…ここらを不毛の地にするつもりか?」
「ヒャハハハ!!構うもんかよ!!テメェさえ殺せれば…エマさえ手に入れば後は知ったことか!!!」
ザックの剣が魔力をどんどん吸収し、周囲の木々が枯れ始める。
「チッ…【招雷・轟】。」
俺が手を掲げ、ザックに向けて振り下ろす。
すると狙い澄ましたようにザックに落雷が落ちる。
だがそれも剣に吸収されてしまう。
「ヒャハハハ無駄無駄!!今の俺は魔力による攻撃は効かねぇよ!!!!」
「ほう…?」
俺はザックの言葉を聞いてニヤリと笑う。
「【雷鳴怒濤】!!!!」
ザックが目で捉えることができない程の金棒による神速の殴打。
ザックの腹に鬼哭がめり込み、紙切れのように吹き飛ばした。
だがザックはヨロヨロと立ち上がった。
「ゲホッ…クソッ…痛てぇ…はぁ…はぁ…ハハハ…まさかあの魔力の渦の中に突っ込んでくるとは…けど生き残ったぜ…」
ザックは剣を杖にして立ち上がる。
剣が異様に輝いている。
「喰らいやがれ…!!【雷の剣】!!!!」
剣から放たられる光がより一層強くなりバリバリと音を鳴らす。
それは正に"雷"という名の剣だった。
「おもしれェ…ただの静電気小僧かと思ってたが認識を改めねェとな。」
「うおおおおおお!!!!!」
雷の剣を大上段から振り下ろしてくる。
並のヤツなら一瞬で消し炭だろうなァ…雷ってのはそれだけのエネルギーを秘めてる。
だが、相手が悪かったな。
俺は片手を黒纏で覆い真正面から受け止めた。
バチバチと剣と俺の手がぶつかり拮抗しているが、一瞬で形勢は傾く。
俺が赫い雷を纏う、そして徐々に剣を押し返す。
「ぐっ!?クソッ!!ぐおおおあああ!!!」
ザックは必死に押し返そうとするがまるで動かない。
むしろどんどん押し戻されていく。
「なんでだよちくしょおおおおおお!!!!」
「確かな才能に胡座かいて溺れたガキに負けるかよ。」
そう言ってバシュウという音を鳴らし雷の剣を握り潰す。
「そ、そんな…」
切り札である一撃をあっさりと潰されたザックは剣を取り落とす。
そしてそのまま膝を着いて項垂れた。
「こんなに…強くなっても届かねぇのかよ…!!」
「フン、大人しくギルドまで着いてこい。」
「くっ!!」
ザックは咄嗟に懐から何かを取り出し地面に叩き付けた。
すると辺りに煙幕が張られる。
「あァ?今更小細工しやがって……あ?」
魔力感知でザックの居場所を探ろうとしたが、どうやらこの煙幕にら魔力感知を阻害する効果もあるみたいだ。
「チッ…どこで手に入れやがったこんなモン…!オラァ!!」
鬼哭を振るって煙幕を吹き飛ばす。
だが煙幕が晴れるとその場には俺しかいなかった。
俺は苛立ちの余り近くの岩を拳で殴り砕いた。
少し落ち着いて渋々エマたちの元へ戻る。
「あ!リューゴさんザックは!?」
「悪ぃ…逃げられた…」
「え!?リューゴさんから逃げ切ったんですか!?」
「言うな…!」
俺から魔力が溢れ出しバチバチと雷が迸る。
「あっ…ご、ごめんなさい。」
「フゥー…いや、今回は俺のミスだ…それよりゲイルは?」
「止血もちゃんとしたのでとりあえずは大丈夫です、でも腕の方は…」
「そうか…」
俺はゲイルとその横で心配そうに手を握っているアビーに一瞬目を向け、エマに視線を戻す。
「多分だが、ザックはこの辺でのルーキー狩りはもうしねェ…」
「ですね、今回のことは私の方からギルマスに伝えておきます。」
「…頼む。」
俺は嫌な予感がしてならなかった。
何故か俺はある男が脳裏から離れないでいた。
悪魔を宿し、悪魔になってしまった男リー・フェイロン…ザックからはヤツと同じ匂いがした。
このままいけばあるいは……
「クソ…これだからガキのお守りはゴメンなんだよ…」
俺はそう言って天を仰いだ。
日が傾き、空はすっかり茜色に染まっていた。




