第61話 新人冒険者狩り
ーザックsideー
あの日からだ…あの日から全てが変わった。
リューゴに負け、目を覚まし自暴自棄になってアビーを手にかけようとしたあの後ギルドから飛び出したはいいが行く宛てなんて無かった。
だが俺は強くなりたく1人でてダンジョンに潜った。
そしてその日からずっとこのダンジョンで寝泊まりしている。
推奨ランクがソロならA、パーティならBランクの高難度ダンジョン『ミュルズ遺跡』、ミュルズ大森林東部の中心にある古臭い遺跡だ。
狩って、狩って、狩って狩って狩って狩って狩ってただひたすらにモンスターどもを狩りまくった。
強くなっている……はずだ…そのはずなのに全く実感が湧かない…それが尚更俺を不安にさせた。
「クソッ…どっか手頃な腕試しできる奴はいねーのかよ…」
座り込んでボヤいていると入口側の方から声が聞こえてくる。
俺は何故か咄嗟に身を隠した。
「さっきからモンスター少なくない?」
「だな、血の跡とか結構残ってるから誰かが先に潜ってんのかな?」
男女2人ずつのパーティだ。
男は剣士と戦士、女の方は盗賊と魔法使いか。
「うーむ…ここらで引き返すか?ギルドに報告せねばなるまい。」
「さんせー!今回は偵察だしさっさと帰ろーよ、でも少し休みたーい!」
「ならここで飯食ってから帰るか。」
「ごはん!?やったーー!!」
あろうことか俺が身を隠す岩の前で飯の準備を始めた。
魔除けの結界を張るため1人は離れていった。
魔除けの結界を張り終え4人で飯を食うソイツらは仲が良かった頃の、上手くいっていた頃の『爪牙』を見ているようでそれが無性に腹立たしくて俺の中にドス黒い感情が溢れてきた。
『なんで俺ばっかりがこんな目に…』
『なんで俺だけこんな惨めな思いしてんだ…』
『なんでアイツらはあんなに楽しそうなんだよ…!?』
そんな考えが頭をよぎる。
そして俺はひとつの考えに至る。
「そうか…手頃な腕試しできる奴見っけ…!!」
俺は岩陰から飛び出し、双剣を抜いて切りかかる。
「【電光石火】!!!!」
速度強化の魔法で瞬く間に手前にいた女2人の首を刎ねる。
するとどうだ、モンスターを狩るよりも断然多い経験値が入ってくるではないか。
「なっ!?」
「何…!?」
剣士と戦士は呆然としている。
クククク…その表情良いなぁ…!!
「何してんだお前ェッ!!!!」
剣士はすぐに剣を抜いて向かってくる。
その怒号に戦士も我に返りメイスと盾を構える。
遅せぇし弱ぇ。
俺は怒りに任せ突っ込んでくる剣士の腕を斬り飛ばし、そのまま脚も片方斬り飛ばす。
そして戦闘不能になった剣士は地に伏せる。
俺はすぐに戦士の後ろを取る。
タンクは基本的に遅せぇ、一対一になった時点でもう勝負にすらなんねぇよ。
「死ねよザコ。」
そう言って戦士の頭を斬り飛ばした。
「ぐぞぉ…なんで…!なんでこんな…」
剣士は地に伏せ酷い顔で涙を流している。
「悪ぃな、俺の糧になってくれや。」
トドメに剣士の喉を一突きする。
すると剣士は静かになる。
「ククククク…はぁーはははははは!!!!スゲェ!!今のでレベルが3は上がった!!!!人を殺したのは初めてだったが…そんなに罪悪感もねぇな。クククク…効率的なレベル上げの仕方も分かったしなぁ…!!」
俺はそう言ってダンジョンを出た。
この日から俺は各地の低ランクダンジョンを回ってE〜Dの新米冒険者どもを狩るようになった。
Bランクはそこそこ名の売れて有名になり始める段階だからあんまり狩り尽くしたら早々にギルドが調査を始めちまう。
俺のその予測が功を奏したのか、数日経った今でも俺は捕まらずに新米を狩り続けていた。
狩りを続けて力を付けるんだ…!
あの鬼神さえ殺せれば敵はいねぇ。
「リューゴ…テメェは殺す…エマは俺のモンだ…!!」
俺の瞳は憎悪と欲望で暗く澱んでいた。
ーside outー
俺は今どうやってザックを探し出すかメシを食いながら考えていると、エマが近付いてきた。
「リューゴさん、どうしたんですか?顔がいつもより怖いですよ?」
「うるせぇ、ほっとけ。」
エマはまだザックの件を知らねェみたいだな。
言うべきか、言わざるべきか……いや、すぐに知れることか。
「エマ、ザックの件は聞いたか?」
「『新米冒険者狩り』のことですか?」
「!!…知ってたのか?」
「さっきエレノアさんが教えてくれました…」
「………」
「正直、信じられません…短い間とはいえ、仮にもパーティを組んだメンバーなので…」
「ザックを探し出してぶちのめす、それがこのギルドのモンとしての俺なりのケジメだ。」
「私も行きます、ここで逃げたらお世話になってるギルマスにも申し訳が立たないので。」
「フン、行くぞ。」
「はい!」
俺たちはギルドを出ると直近で新米が殺されたダンジョンへと向かった。
「『ゴブリンの巣窟』、ルーキーたちが必ず通る登竜門です。」
「ゴブリンっていやぁザコのイメージしかねェが。」
「確かに一体一体は非力で弱いですが、ゴブリンは狡猾です。簡易的な罠や待ち伏せをしたりする頭はあるんです。」
「なるほどなァ…新米たちがそこでふるいにかけられるわけか。」
「はい、かなり過激な実地試験ってとこですかね。」
「お前から見てどうだ?」
「ザコですね、どれだけいても瞬殺です。」
「ハッハハハ!まぁそうだろうなァ。」
「あ、でもゴブリンソードマスターとかのある一点を極めた奴らはなかなか手強いです。」
「ほう…?詳しく聞かせろ。」
「はい、ゴブリンにも色々な種類がいます…と言っても独自で剣を覚えたり魔術を覚えたりと手に職つけた個体が別の個体として扱われてるだけですけど。その中でゴブリンソードマンの上位個体であるゴブリンソードマスター、そしてゴブリンメイジの上位個体であるゴブリンキャスター、この2体はかなり厄介ですね。ソードマスターは単純に強い、キャスターはバフ、デバフ、攻撃、更には治癒の魔法まで使ってきます。この2体が同時に現れたらまず逃げろって言われてますね。」
「2体同時に現れたらおめェでも無理か?」
「勝てます、でも少し時間がかかりますね。」
「なるほどなァ…」
「リューゴさんが楽しめるのはゴブリンキングくらいじゃないですかね。」
「でもゴブリンがそこまで生き残るってこと自体少なそうだけどな。」
「仰る通りです、ほとんど御伽噺みたいなものですよ。奴らは基本的に見つけたら根絶やしの方針なので生き残ることが少ないです。」
「つまんねぇなァ…」
ゴブリンの講義を受けながら最深部であろう開けた場所に出る。
「……血の臭いはする…これといった痕跡が残ってねぇな。」
「ダンジョンではモンスターの死体は残りません。全て魔石に変わりますからね。」
「その魔石すらもねぇな。」
「ルーキーたちが殺されたとしたらザックが持ち去ったと考えるのが妥当ですけど…指名手配されて街に入れないのに何のために…?」
「最初の被害にあったヤツは?」
「Bランク『栄華の集い』、男女2人ずつの4人パーティです。」
「それ以降はE〜Cのルーキーしか狙ってねェのか…何か狙いがあんのか…?」
「とりあえずここを出ましょう、何も手がかりが残ってませんし。」
「ああ…」
俺とエマは来た道を戻りダンジョンから出る。
「キャーーーーッ!!!!」
女の悲鳴が森に響いた。




