第59話 夜明け
ーグレゴリsideー
あれからどのくらい経った…?
相手の攻撃は全く当たらずこちらの攻撃は面白いように当たる。
それを繰り返してかなり経つ、奴のダメージもかなり蓄積しているはず…そのはずなのに…
何故この男は未だに私の前に立っている!?
「もう少しで何か掴めそうなんだよなァ…」
私の憤りなど意にも介さず頭を捻っている。
『ハァ…ハァ…ナンナノダキサマハァ…!?』
「あ?」
『ナゼタオレン…!?』
「おめェの拳が軟弱だからだろ。」
そんな馬鹿な話があるか…!!
死徒の中では最下位に位置付けられているとはいえ私は悪魔の中では最上位種だぞ!?
『グルアアアアア!!!!』
未来感知を発動し、魔力を纏って殴り掛かる。
人間も反撃をしてくるが簡単にかわして反撃する。
顔面に拳が入るが、人間は倒れるどころか張り合ってくる。
「ぬぅ…何か足りねェ…」
咄嗟に私は距離をとる。
『(何故だ!?何故倒れない!?何故私が後退させられる!?!?)』
人間が殴りかかってくる。
私は未来を知覚しそれかわそうとする。
「!!」
急に奴の拳が眼前に迫ったかと思えば、気が付いたら私は仰向けに倒れていた。
『(…!?何が起こった…!?何故私が倒れている!?)』
起き上がろうとしたがまるで体が言うことを聞かない。
ようやく体を起こせても視界が揺れて戦うどころではない。
「ようやく当たったぜ。」
私がフラフラと立ち上がると人間が不遜に笑っていた。
ーside outー
「種明かししてやるよ。」
そう言って俺はヤツの攻撃圏内に入る。
『ナメルナァ!!!!』
拳を捌くが、まだ未来感知の精度はアイツのが上だ。
チラホラ掠る、だが見えた…!!
「ここだァ!!」
無数の拳の1発に合わせてカウンターで顎を思い切りかち上げた。
『ゴバァッ!?』
悪魔は空中で縦に回転して吹き飛び地面に叩きつけられる。
「俺の魔力感知は大味でよ、未来を感知することはできねェ。」
『ガフッ…ナラバ…ナゼ…!?』
俺はニヤリと笑う。
「魔力感知単体だと無理だからよ、あとは目と勘。」
『(バカな!?勘だと!?そんなもので私の未来視を破ったというのか!?)』
「フゥー…あちこち殴られて痛てぇ痛てぇ。」
首をコキコキと鳴らす。
『アノ御方ノタメニ…ナントシテモ負ケラレン!!!』
あのお方?コイツ…誰かに踊らされてんのか。
悪魔は必死の形相で殴りかかってくる。
まだ我流の未来感知に慣れてないせいかまだ何十発かに1発は掠る。
だがさっきよりクリーンヒットは格段の減った。
その事実が更にグレゴリを追い詰める。
『クソオオオオオ!!!!』
そして俺はそんなヤツを見ていて気付いた。
「おめェ、自分より強ェヤツと戦ったことねェな?」
『ッ!!』
「図星か。」
『ダマレダマレダマレエエエエ!!!!』
攻撃の苛烈さは増すが怒りのせいで単調になる。
俺の拳は黒く染まりバチバチと紅の雷が迸る。
「赫雷・霹靂神!!!!」
カウンターで腹に俺の拳が突き刺さる。
『ゴボァッ』
「もう良いのは貰わねェよ…オラァ!!」
俺は悪魔の体を地面に叩き付ける。
そして俺の魔力が膨れ上がる。
それを見て悪魔は俺のやろうとしてることを察したのか焦り出す。
『ハ、ハナゼ!!ヤメロオオオ!!!』
「おめェがどっから湧いて出たか知らねェが、来世はマトモに生まれろや【劫雷華】ァ!!!!」
『ガアアアアアアアア!!!!!』
俺は拳に雷となった膨大な魔力を流し、ヤツの腹の中でそれを炸裂させた。
雷は悪魔の体を内から喰い破り空へ轟く。
「す、すごい…」
「まるで地に咲いた雷の華だな…」
「ひえええ!!!」
隅に避難していたメンツが各々感想を零す。
しばらく雷鳴が轟いたあと四肢が既に炭化した悪魔から手を引き抜く。
『ク…ソ…ユル…サ…ヌ…』
恨み言を残そうとしたみたいだが悪魔の身体は塵となって消えた。
「……」
聞きたいこともあったが、消えちまったもんは仕方ねェか…
俺はそう思い切り替えてエマたちの元へ向かった。
「さすがです。」
「お見事だ。」
「ひいいい!!!」
バカ殿がうるせェからデコピンで気絶させる。
「リューゴさん…結局リーさんは…」
「死んだろうな、塵になっちまったし…」
「カゲミツはこの有様で、三武将もみな倒した…ということは…」
「いや、まだだ。」
祝勝ムードになりかけたが俺が制す。
「まだ何かあるのか…?」
「あの悪魔は"あのお方の為にも"つってたからなァ…まだ本命が残ってる。」
「確かに言ってましたね。」
「そうか…父の仇は未だ討てず、か…」
「モミジ…」
エマが心配そうな声を出す。
エマは哀愁の漂う笑顔で首を振る。
「城は落ちた…人死は出ていないが町もめちゃくちゃだしな、当然民は混乱するだろう…ならば、私のやることはひとつだ。」
「フン、しつこく仇を取ろうとしてた時よりいい顔になったじゃねェか。」
「そう…なのか…フフ…私も仇を睨め付けるのに辟易していたのかもな…」
「モミジ、これからどうするんですか?」
「町を…いや、国を復興する。貧困に喘ぎ、日々誰かが死んでいくなんて真似はさせない。」
「あら〜…結局負けちゃったのね。」
門の方からテミスが歩いてきた。
「ッ!?」
「?」
モミジは臨戦態勢に入り、エマは誰か分かってないようだ。
「よう、リベンジしに来たのか?」
「うふふ、素敵な提案だけど今回はやめておくわ…子猫ちゃんもそうカリカリしないで?何もしないわ。」
「えーと…どちら様です?」
「あら、自己紹介がまだだったわね。テミス・エルメインよ、よろしくね♡」
「テミス……えっ弓将テミスですか!?」
「うふふ、城も落ちちゃったから元だけどね〜。」
「で、おめェはどうするんだ?」
「どうしようかしらね、とくに何も考えてなかったけど…賞金稼ぎでもしようかしら。」
「あんな噂のあるお前がか…?」
モミジが訝しげな顔をする。
「あら、貴方もあの噂を真に受けてるクチ?私が幼い頃から快楽殺人鬼って?」
「違うんですか?」
「冗談!私が狩ったのはエルフの国に救ってた魔王信者どもよ。」
エマの不思議そうな顔に笑顔で茶化すように答える。
「なんだと…?ならあの噂は…」
「多分魔王信者の流したものでしょうね…おかげで国を追われちゃったわ。」
困ったものねと豊かな胸を支えるように腕を組んでため息を吐く。
「そう…だったのか…」
「おめェも色々大変だなァ…」
「うふふ、そうでもないわ。こうして国の外を旅するのは楽しいしむしろ私のしょうに合ってるもの。さて、私はそろそろ行くわね。縁があったらまた会いましょ。」
テミスはそう言い残して空気に溶けるように姿が消えた。
テミスが去ったタイミングで朝日が顔を覗かせる。
「チッ…夜が明けちまったか…俺ァ帰って寝る、行くぞエマ。」
そう言ってエマを肩に担ぐ。
「お手数おかけします〜…」
俺は宿に向かって歩き出す。
「リューゴ殿、エマ!!」
「あ?」
「どうしたんです?大きな声出して。」
「前将軍の娘として、友として、本当に礼を言う…!!」
「…今回はなかなか楽しめた、褒めてやるぜ。」
俺はそう言うと歩き出した。
「…ヤマトを覆う暗雲を払い切れてはいないが…ここからだ…これが本当のヤマトの夜明けだ…!」
モミジはそう呟いて、朝日に向かって歩く俺たちを眩しそうに眺めていた。




